GTよ、ありがとう!
ところで、防波堤にいるGT組(前回参照)はどうしてるのか。トビウオ組と違い、そこは海との高低差が10メートル以上はある。直下に広がる海は流れの速い黒潮ど真ん中だ。カナヅチの私なんぞ、 落ちたら一巻の終わりだ。
「あっ、GTが上がったみたい!」
チホさんが防波堤の先に向かって走り出した。「誰や?誰が釣ったんや?!」スミコさんもダッシュ。ん?携帯で連絡が着た様子もないのになんでわかるの?
「防波堤の先にいるみんなのヘッドライトが、チラチラと動き出したから」と、チホさん。港は暗すぎてヘッドライトの小さな動きでも遠くから確認できる。私も2人に続く。辿り着いたそこでは、20代の青年が一人、今まさにGTを引き上げようとしている瞬間だった。
手に握る釣り竿はグネ~っとほぼ垂直に曲がった状態。うわッ!うわッ!コレって、むっちゃ大物?!大物を釣り上げるトコロを見たコトがない私の興奮度はMAX!ついつい青年の近くまで寄って眺めてしまう。ググっと全身で踏ん張りまくる青年。足元が防波堤の縁に近づいていってる気もするような。海へ落っこちやしないか?!他の釣人は少し離れたトコロから見守っている。
なんで?『おおきなかぶ』の絵本のように、みんなでひっぱるものではないの?疑問だらけだが、空気があまりにも張り詰めているのでとても聞けやしない。そんな私の「?」を察したのか、チホさんがポソッと教えてくれた。
「一人で釣り上げないと記録にカウントされないんよ」
え?体長2メートルぐらいのGTの魚拓が宿にありましたよね?あれすべて一人で釣ったものなんですか?!青年は相変わらず踏ん張り中。自身の全身が重りのよう。釣り竿の曲がりっぷりも半端ない。あぁっ……竿が折れるか、青年が海に落ちるか。見ているこっちがハラハラする。
しかし騒いではいかんのだ。ひたすら口を貝にして、私も違う意味で踏ん張る。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。