聖なる存在になったマイケル・ジャクソンと「24時間テレビ」

今年も、例年通り「24時間テレビ」が放映されました。今回は、賛否両論のこの番組の仕組みを考えるときにも役立つ、聖と俗という二分法によるモノの見方について、みてみましょう。ここ数年で広がっている聖地巡礼や、どこの観光地に行っても見られる大量生産の土産物の不思議についても、この見方は役立ちそうです。

私たちは、二分法をしたがる生き物です。草食系と肉食系とか、2つに分けるのが好きです。草食か肉食か、単純に二分できるわけはありません。両者の間には、若干、草食っぽい肉食とか、限りなく肉食に近い草食とか、微細なグラデーションがあるはずです。でも私たちが2つに分けたがるのは、物事を単純化することでアタマを使わないで済み、ラクだからです。

二分法のひとつが、聖と俗という分け方です。エミール・デュルケームという昔の社会学者が、宗教の中心的特色を聖と俗の二分法であると考えたのでした。例えば、ゴミのポイ捨てをするような行儀の悪い人も、神社の境内ではそんなことをしないと思います。つまり境内は聖なる場であり、境内の外は俗なる場なのです。

宗教の話だからマーケティングに関係ないだろう、と思った人もいるかもしれません。しかし実は消費においても聖なる世界と俗なる世界があります。今日は、聖なる消費と俗なる消費について考えましょう。聖なる消費とは、日常からは距離感があり、敬意と畏怖の念を抱かれているモノや出来事のことを指します。一方、俗なる消費は、日常的であり特別ではないモノや出来事のことを指します。

聖なる消費はもともと神聖だったわけではありません。俗なる消費が、あるプロセスを経て聖なる消費に昇華するのです。これを神聖化と言います。どういったことでしょうか?

モノを神聖化する方法のひとつとして、コレクション(収集)があります。例えば、ブリキのおもちゃのコレクターっていますよね。ひとつ、ふたつしかないと、興味のない人から見たら、ただのガラクタにしか見えません。しかし1,000個とか2,000個収集すると、誰もが「すごい!」と思い、何か崇高なるものを見出すようになります。体系的にモノを集めることで、ガラクタだったモノが、聖なる価値を帯びてしまうことがあるということです。

モノだけでなく、セレブも聖なる存在になることがあります。それは死んだときです。例えば歌手のマイケル・ジャクソンは、1980年代にめざましい活躍をした後に、相当な変人として報道され続けました。整形ばっかりしているとか、隠し子がいるとか、真偽が分からないものも含めて、数多くの「ゴシップ」がメディアに溢れていました。しかし死んだ途端、手のひらを返して「ありがとう、マイケル」という報道一色になってしまいました。

その理由のひとつは、残酷なことですが、聖なる存在になってもらう方が商売になるからでしょう。実際にマイケルの場合、死後に制作されたドキュメンタリー映画『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』は大ヒットしました。

モノや人に加えて、場所も神聖化することがあります。2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件の標的となったニューヨークのワールドトレードセンターの跡地は、「グラウンド・ゼロ」として聖地となっています。

いま聖地と言いました。きっと「聖地巡礼」というキーワードを思い浮かべたと思います。聖地巡礼もまた、場所が神聖化する例です。東京・四谷の須賀神社前階段は、アニメ映画『君の名は。』の聖地として、多くの人が訪れています。ネット情報によると、主人公の瀧と三葉が再会する場所、ですね。ちょっと自信がないのは、ぼくはこの映画を飛行機で居眠りしながら見たからです。展開が早くていまいち筋を追い切れませんでした。

それはさておき、この階段、『君の名は。』がヒットする前は聖地だったんでしょうか?そんなことないですよね。単なる階段だったはずです。しかし多くのファンが「巡礼」することによって聖なる場所になっていったのです。

最近は、アニメを制作する段階から、聖地巡礼をあてこんで作っている例もあるようです。さらには、訪日観光客も聖地巡礼をするようになりました。このように神聖化することで、様々なビジネスが生まれるのです。

イベントもまた神聖化することがあります。例えば、オリンピックの聖火リレーを思い浮かべて下さい。聖火は、ギリシャのオリンピア遺跡で太陽光を利用して採火されます。それを聖火ランナーたちがリレーをして、開会式の開場まで届けられます。そして、開会式当日、競技場に設置された聖火台に点火されます。これは決められた手順にしたがって定期的に繰り返されるという意味で、まさに儀礼です。儀礼を行うことでオリンピックは聖なる存在になるのです。

「24時間テレビ」では、毎年チャリティーマラソンをします。これって聖火リレーと同じロジックで、「24時間テレビ」を神聖化しているのです。

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tokuyoshikeiji 「24時間テレビ」では毎年チャリティーマラソンをします。これって聖火リレーと同じロジックで「24時間テレビ」を神聖化←なる〜ようやく腑に落ちた=З 約2年前 replyretweetfavorite