さくらももこ」の作品は、なぜ時代や世代を超えるのか?

「『ちびまる子ちゃん』の中で、あのナレーションの人がいちばん好き」。そう言われて初めて「あのナレーション」とは、作者の声であることを小学生のわたしは知った。結局、みんなが好きな『ちびまる子ちゃん』という作品は、さくらももこ先生の視点や語りそのものだったのだ。
「京大院生が選んだ人生を狂わす名著50」がリニューアルして、cakesオリジナル定期連載。

「さくらももこ」の作品はなぜ時代や世代を超えるのか?

 わたしが人生で初めて読んだ「大人の本」はさくらももこのエッセイだった。

 母親が好きだったのだ。家にあった『たいのおかしら』を「こんなに笑えるエッセイはあとにもさきにもない」と絶賛していた。どんなもんじゃい、と目を通してみると、笑った。おもしろかった。読み進めると『グッピーの惨劇』の箇所でいよいよ声を上げて笑ってしまった。
 ちびまる子ちゃんのアニメはおもしろおかしく見ていたけれど、待ってくれ、大人になったまるちゃんはこんな人間だったのか。さくらももこ作品にハマった小学生のわたしは、近所の古本屋で『もものかんづめ』や『さるのこしかけ』を買い、『ちびまる子ちゃん』を漫画喫茶で読んだりするようになった(のちに結局買った)。わたしがたまに「なぁ」という語尾を「なァ」と書いたり、マッサージと美容院のシャンプーにときめいたりするのは、どう考えてもさくらももこDNAによるものである。
 これは個人的な話だけど、それまでうちの母親が薦める本というのはことごとくわたしの好みに合わなかった(『赤毛のアン』とか『三国志』とか。もう少し大人になったら好みが合う本も出てきたのだけれど)。しかし、人生で初めて登場した「母親とおもしろいという意見が一致した本」が、さくらももこのエッセイだったのである。

—と言うと、母親とわたしのように、「老若男女にウケる」のがさくらももこの魅力である。という結論に至りそうなもんだ。まぁたしかに『ちびまる子ちゃん』は国民的アニメだし。
 だけどこの「老若男女にウケる」という事象は、存外に単純ではない。
 だって今そのエッセイを読むと、「さくらももこ作品って、けっこう、狂気に満ちてんな……」と思うから。


さくらももこエッセイデビュー作品『もものかんづめ』

 たとえば『もものかんづめ』に収録された「底なし銭湯」(この話、「無意味な合宿」に並んでめっちゃ好き)。

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もものかんづめ (集英社文庫)

さくら ももこ
集英社; 第4版
2001-03-01

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『人生を狂わす名著50』(ライツ社刊)著者、三宅香帆による文学レポート。  ふと「いまの文学の流行りをレポート」みたいな内容を書いてみようかなと思い立ちました! なんとなく、音楽や映画だと「ナタリー」みたいな流行をまとめる記事っ...もっと読む

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ssizuu1 >ついつい、何かを書いたり届けたりするとき、読者や時代の流れや自分の年齢や属性というものを意識し、狙ってしまうけれど。 |三宅香帆 @m3_myk https://t.co/Sj9L3p9qZY 10ヶ月前 replyretweetfavorite

Masaru1118 エッセイはつまみ食い程度にしか読んだことがなかったけれど、あらためて読みたくなりました。 10ヶ月前 replyretweetfavorite

m3_myk 小さい頃にさくらももこ作品にもらったものって、結局「バカにしていいこととバカにしちゃいけないことの分別」だったんだと思う。シニカルに世界を見つつも、ちゃんと慈しむべきものがこの世にはあるよ、って。 https://t.co/2UOIitJgmG 10ヶ月前 replyretweetfavorite