「さくらももこ」の作品はなぜ時代や世代を超えるのか?
わたしが人生で初めて読んだ「大人の本」はさくらももこのエッセイだった。
母親が好きだったのだ。家にあった『たいのおかしら』を「こんなに笑えるエッセイはあとにもさきにもない」と絶賛していた。どんなもんじゃい、と目を通してみると、笑った。おもしろかった。読み進めると『グッピーの惨劇』の箇所でいよいよ声を上げて笑ってしまった。
ちびまる子ちゃんのアニメはおもしろおかしく見ていたけれど、待ってくれ、大人になったまるちゃんはこんな人間だったのか。さくらももこ作品にハマった小学生のわたしは、近所の古本屋で『もものかんづめ』や『さるのこしかけ』を買い、『ちびまる子ちゃん』を漫画喫茶で読んだりするようになった(のちに結局買った)。わたしがたまに「なぁ」という語尾を「なァ」と書いたり、マッサージと美容院のシャンプーにときめいたりするのは、どう考えてもさくらももこDNAによるものである。
これは個人的な話だけど、それまでうちの母親が薦める本というのはことごとくわたしの好みに合わなかった(『赤毛のアン』とか『三国志』とか。もう少し大人になったら好みが合う本も出てきたのだけれど)。しかし、人生で初めて登場した「母親とおもしろいという意見が一致した本」が、さくらももこのエッセイだったのである。
——と言うと、母親とわたしのように、「老若男女にウケる」のがさくらももこの魅力である。という結論に至りそうなもんだ。まぁたしかに『ちびまる子ちゃん』は国民的アニメだし。
だけどこの「老若男女にウケる」という事象は、存外に単純ではない。
だって今そのエッセイを読むと、「さくらももこ作品って、けっこう、狂気に満ちてんな……」と思うから。
さくらももこエッセイデビュー作品『もものかんづめ』
たとえば『もものかんづめ』に収録された「底なし銭湯」(この話、「無意味な合宿」に並んでめっちゃ好き)。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。