カウチ・サーフィンが旅行を原点に回帰させる
旅行の世界でも、実用主義や本質的なコミュニケーションを追求する動きがある。
その代表的なものが「カウチ・サーフィン」だ。
これはネット上のコミュニティであり、現在、世界でもっとも大きなホスピタリティー・エクスチェンジ・ネットワーク(宿泊先の交換ネットワーク)である。
海外旅行をする人が、このサイトを通して宿泊する他人の家を探すというもので、相互的な思いやりや信頼に基づく仕組み。プロフィール、身分確認制度、メンバー同士の評価等により、世界各地のメンバー間で連絡を取り、相談のうえで宿泊が決まる。
アメリカ人、ケーシー・フェントンにより、2000年に始まったプロジェクトであるが、彼によると、アメリカのボストンから格安便でアイスランドを訪れたときに思いついたアイディアだそうだ。
ホステルに宿泊する代わりに、ランダムにアイスランド大学の学生1500人にメールをして、泊めてくれるように依頼した。すると、宿泊を提供すると返信してきた学生が50人もいた。
ボストンに帰る復路便のなかで、カウチ・サーフィンの発想が生まれたという。
2004年1月にウェブサイトとして公開され、2011年10月現在、約330万人がユーザーとして登録されている。
カウチ・サーフィンの公式サイトは、つぎのように語る。
「興味深いのは、〝海外旅行の宿泊費がタダになる〟という明確なメリットがあるにもかかわらず、ユーザー数の大半が世界における〝先進国〟と評される国であることです。
先進国の旅行者が重視しているものが〝値段〟ではなく〝新しい人とのつながり〟や旅行先で得ることのできる〝体験〟にシフトしているのではないかと考えられます。
また、自宅に旅行者を宿泊させる〝時間的余裕〟があることが、先進国のユーザーが多く存在する理由かもしれません。
先進国の人々を中心に、人々の価値観が〝物的価値〟ではなく〝精神的価値〟に徐々に遷移しているのかもしれません」
このように、カウチ・サーフィンは、旅行を物質的・消費的なものから、人間関係的・精神的なものに変えようとしている。旅行の本質を「異なる世界とのコミュニケーション」に重きを置くものに変える、とでも言えようか。
格安航空会社の台頭も相俟って、海外旅行で大事なのは飛行機でもホテルでもなく、異なる世界の体験と異なる人々とのコミュニケーションであるという、実は原点に立ち返る行為なのではないかと思う。
旅行においても、ソーシャルメディアによって本質が再定義されている。
ソーシャルグッドなライススタイル誌の台頭
サンフランシスコで「フリーマンズ・スポーティング・クラブ・バーバー」のリキ・バイロンに話を聞いたとき、その取材に同席したタトゥー・アーティストのハンナ・サンドストームは、つぎのように語っていた。
「今は、基本に立ち戻って、人生をシンプルにするべきとき。物事のコアを探るべきときだと思う」
基本や原点に回帰し、物事の本質やコアを探ること。イメージやテクノロジーに翻弄されず、情報感度の高い、能動的で賢い消費者であること。物的価値ではなく精神的価値を求めること―。
こういった「価値観の変化」全般を率先して扱っているのが、「ライフスタイル・マガジン」だ。
ファッション誌でもインテリア誌でも食の雑誌でもない、それら全体を扱い、ある傾向の価値観、ライフスタイルを提示する雑誌をこう呼ぶのだが、海外ではこのジャンルの雑誌がいま、続々と登場している。
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