先日、「リベラルが嫌われるのは、リベラルになるチャンスを得るのが『親が金持ちでいい学校に行ったエリート』ばかりだから」、「今の日本で思想的な対立のように見えるもののほとんどは階級対立」という内容のツイートを見かけた。3000人以上がLike(いいね)を押しているところを見ると、これに共感する人が多いのだろう。
こういった意見は2016年のアメリカ大統領選挙でもよく見かけたが、事実なのだろうか?
大統領選を初期から地元で追ってルポした体験からは、「リベラルになるチャンスを得るのはお金持ちのエリートばかり」というのは事実とはほど遠い。リベラルである民主党は、昔から労働組合を支持してきた党なのだから。むしろ、それは政治家やその選挙陣営、支持者が、政治的な対立を作り上げるために誇張している情報だと捉えるほうが正しい。
ネットで観察していると、アメリカの現状を直接知らない日本で、保守の共和党が「低学歴、低所得の庶民の党」であり、リベラルな民主党が「高学歴、高所得のエリートの党」だと思いこんでいる人が少なくないようで驚く。
私は2016年の大統領選挙のルポでトランプ現象について「トランプに熱狂する白人労働階級『ヒルビリー』の真実」といったコラムをいくつか書いたが、そういう一部の情報から誤った全体像を導き出しているのかもしれない。トランプ現象を作ったのは「ヒルビリー」に代表される地方の白人労働階級だが、伝統的な共和党支持者は大企業のトップであり、高学歴のお金持ちなのだ。それは現在も変わっていない。
保守の共和党こそ「高学歴、高所得のエリートの党」だった
拙著『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』ではアメリカの二大政党について簡単な歴史と現状を説明した。少なくとも2016年の大統領選挙が始まった時点までは、共和党と民主党の最大の違いは「富の再分配」についての理念だった。
富の再配分では、「租税」、「社会保障」、「労働保証」、「税制優遇措置」などが経済政策の焦点になる。富裕層から相続税などでより多くの租税を回収し、所得が少ない者を保護する社会保障をし、最低賃金の引き上げや福利厚生で労働者を優遇するのがリベラルの民主党の立場だ。
「大きな政府」が国民を守ると信じる民主党に対し、共和党は「大きな政府」による強制的な富の配分は経済成長を妨げる可能性があると信じている。「自由経済による経済成長で経済全体のパイが大きくなれば、配分されるパイの1片も大きくなる」という立場だ。
富の配分を含めた民主党と共和党の違いを簡単にまとめると、2016年大統領選挙開始時点では次のようなものだった。現在でもそれぞれの党の指導者層はそう思っているはずだ。
民主党:大きな政府。福祉優先。労働者優先。保護貿易。ボトムアップ型の経済重視。人種、宗教、LGBTQ、性別などでの差別に反対。人権重視。女性の生殖での選ぶ権利支持。環境保護。銃規制賛成。
共和党:小さな政府。減税。大企業優先。自由貿易。トップダウン型の経済重視。キリスト教保守の伝統的保守思想を重視。地球温暖化否定。不法移民反対。銃規制反対。
これらからもわかるように、少なくともジョージ・W・ブッシュ43代大統領の時代まで、共和党は大企業優先の「高学歴、高所得のエリートの党」であり、共和党の最大の支持者は、コーク兄弟のような超エリートだったのだ。
アメリカで「リベラル」と見なされているニューヨーク市近郊のコネチカット州に、超一流の社交クラブ「グリニッジ・カントリークラブ」がある。義弟夫婦が属していたこともあり、何度か行ったが、義弟を含めて大多数が保守の共和党支持者だ。夫の両親も複数の社交クラブに属していたが、そこでの友人たちは今でも全員共和党支持者だ。
彼らこそが、典型的な「親が金持ちで良い学校に行ったエリート」だ。
このような人たちが共和党への選挙資金を提供してきたのであり、そういった大富豪を優遇する税制などを進めたのは共和党なのだ。現在のアメリカで深刻な問題になっている経済格差を招いたのは民主党が作った政策ではないし、高学歴エリートのリベラルでもない。
それなのに、「高学歴のエリートであるリベラル」への憎しみを煽るトランプに多くのアメリカ国民が操られてしまった。新たに共和党に加わったトランプ支持者は共和党にとって重要な信念である「自由貿易」とは正反対の「保護貿易」を支持しており、トランプに乗っ取られた形の現在の共和党はもはや保守でも共和党でもなくなっている。
裕福でないがリベラルのバーモント州
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