第6回】イメージ産業はもう古い

今、大量生産から個人主導の製造に時代が移り変わろうとしています。人々の興味がイメージではなく、リアルなものに移っている中で、これからのイメージ産業はどうなっていくんでしょうか? 好評発売中の『中身化する社会』(星海社新書)から、第1章・第2章をcakesで連載していきます。別途掲載の著者・菅付雅信さんのインタビューとご一緒にどうぞ!

ピクセルの世界では味わえないリアルなものづくり

『ワイアード』誌の編集長であり(当時。2012年11月に編集長を辞め、自ら起こしたメイカー企業3D RoboticsのCEOに専念すると発表)、『フリー』『ロングテール』などのベストセラーを連発するクリス・アンダーソンは、この盛り上がるメイカー・ムーブメントを『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』(NHK出版 2012年)という一冊の本にまとめた。
 この本もまた、ベストセラーとなっている。読まれた方も多いのではないだろうか。


MAKERS―21世紀の産業革命が始まる
MAKERS—21世紀の産業革命が始まる

アンダーソンは、その新たな運動の核をこう語る。

「大量生産には技術と設備と投資が必要になるため、製造業は、大企業と熟練工にほぼ独占されてきた。
 それがいま変わりはじめている。
 どうしてだろう? もの作りがデジタルになったからだ。いまや、モノはスクリーン上でデザインされ、デジタルファイルとしてオンライン上でシェアされる。
 これまでの数十年間に工場や工業デザインの会社で行われてきたことが、個人のデスクトップや工房でも行われるようになりつつある。
 デジタルに移行することで、産業にさまざまな根本的変化が訪れる。小売から出版まで、あらゆる業界でそれが起きてきた。
 最大の変化は、ものごとを行う手法ではなく、それを行う主体に見られる。
 一般的なコンピュータでものごとを処理できるようになると、だれでもがそれを行えるようになる。いままさに、製造業でそれが起きている。
 いまでは、発明や斬新なデザインを思いついたら、製造サービスサイトにファイルをアップロードして、望みの個数だけ製品を作ってもらうこともできるし、3Dプリンタのような高機能の卓上デジタル工作機器を使って、自分で作ることもできる。
 未来の起業家や発明家は、アイデアを製品にしてもらうために、大企業のお情けを乞う必要はない。
 ウェブ世代にとっては、工房で試行錯誤するよりも、デジタルなファイルがすぐに現実のものになる方がいいに違いない。同時に、デジタル世代はスクリーンを超えた人生を心から欲しはじめている。
 バーチャルにデザインしたものを、あっという間に日常の世界で手に取って使えるものに作り上げる喜びは、ピクセルの世界では味わえない。
『リアリティ』を追求すれば、かならずリアルなもの作りに行き着くのだ」
(NHK出版『MAKERS』より)

 ホワイトハウスは、アメリカ国内の個人的な製造業の未来について、「The Grand Challenges of the 21st Century」というレポートを2012年4月12日に発表して、このように宣言している。
「個人ファクトリーの増加は、初期のパーソナル・コンピューターの誕生に比較されるだろう。これから10年以内に、あなたの孫にどうして3Dプリンターのない生活ができるのか説明するのが難しくなる時代が来るだろう。
 個人的な製造技術(パーソナル・ファブリケーション・テクノロジー)は、アメリカが製造業においても、新しいやり方で世界をリードする機会を提供するだろう」
 この宣言が示すように、アメリカは、大量生産の製造業から個人主導の製造業にアップデートするという新しい領域に入ろうとしている。
 クリス・アンダーソンは『MAKERS』のなかでこのように予言する。

「ここに、二一世紀のもの作り経済の形が見えてくる。
 製品開発面では、メイカームーブメントは安い労働力よりもイノベーションを促す文化に有利に働く。協創(コ・クリエーション)やコミュニティによる開発を大切にする社会が勝つだろう。
 このような社会は、あらゆる分野で優れた才能と高いモチベーションを持つ人材を発見し育成することに秀でている。もっとも活気のあるウェブコミュニティが発展し、もっともイノベーティブなウェブ企業が成長するのはどの国かを見てみるといい。
 そうした社会の価値観が、二一世紀の市場での成功につながる」

 ネットによる情報革命で世界をリードしたアメリカが、新しい価値観をもって次なるものづくりでも世界をリードするという姿勢が見られる。
 メイカー・ムーブメントは単なる「手作り礼賛」ではないことを認識したほうがいいだろう。

イメージ産業の衰退

 実用主義の流れのなかで芽生えた新しい時代のものづくりは、クリス・アンダーソンが「21世紀の産業革命」と呼ぶように、産業構造の大きな変化を物語っている。
 特に、ものづくりと対極にある「イメージ産業」に、かなり大きな変化をもたらすだろう。
 イギリスのファッション評論家、アンジェラ・マクロビーは、自著『British Fashion Design』(Routledge 1998年)で、ファッションをイメージ産業(Image industry)だと規定しているが、僕はここではその範疇を広げ、イメージが実態よりも先行することによってこそ商品やサービスが成り立つ産業全般のこと、と定義したい。
 なかでも、ファッション、化粧品、広告というのは、20世紀を代表する三大イメージ産業ではないかと考える。
 ソーシャルメディアが見栄を殺したことで、ファッション産業が「カジュアル化」「コンフォート(本質)化」しつつあることについては、すでに第1章で言及した。
 ここでは、化粧品と広告の現在、そして未来について考察してみたい。

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中身化する社会

菅付雅信

生きるうえで大事なことが、変わりました。ネットの進化、そしてソーシャルメディアの爆発的普及によって、テレビや広告などによるイメージ操作は、ほぼ効かなくなったのです。それは、ウソや誇張はすぐに検証され、バレてしまうため。すべての「中身」...もっと読む

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