第5回】「自分で作る」という贅沢

パーソナルなこだわりを持った「新しい実用主義」が台頭しています。人々は華美で装飾的な人や物ではなく、本当に実力のある人や手作りで温もりのある物を求めています。そんな中で、少し興味深い動きが人々の間で起こっているというのです。好評発売中の『中身化する社会』(星海社新書)から、第1章・第2章をcakesで連載していきます。別途掲載の著者・菅付雅信さんのインタビューとご一緒にどうぞ!

クラフトマンシップの復活

 2012年の9月末に、アメリカ・カリフォルニア州のサンフランシスコを訪れた。
 サンフランシスコは人口80万人あまりの都市だが、西海岸最大の金融街を持ち、さらに郊外にIT産業のメッカ、シリコンバレーを抱えているため、たいへん活気のある街だ。
 ちなみに、アップルの本社があるクパチーノ市まで、街の中心から車やバスで40分ほどで着く。現地の人たちに話を聞くと、家賃の高騰も激しく、ニューヨークとほとんど変わらないという。
 そのサンフランシスコで、ファッションブティックと雑貨屋、そして現代的なバーバー(床屋)が合体した話題の店「フリーマンズ・スポーティング・クラブ・バーバー」のディレクター、リキ・バイロンに話を聞く機会があった。


by Robert Sheie

「フリーマンズ・スポーティング・クラブ」は、ニューヨークで成功した、レストランやブティック、バーバーなど、複合的な業態を営むライフスタイル提案型ショップであり、すべてのプロダクトが店から10マイル(約10・6キロメートル)以内で生産されているメイド・イン・USA製品、というこだわりを持つ。
 サンフランシスコに新たなお店を出すため、ニューヨークからサンフランシスコに移ってきたばかりのリキ・バイロンは、こう言っていた。
「ラグジュアリーから実用性へと、人々の関心が移行していると思う。
 実用主義が新しい時代の兆候と見なされ、人々はそちらに向かっているね。それは知的な行為だと思う。
 もしクラフトマンシップ(職人の技能)の高いジーンズを買う場合、人々は〝このジーンズのコットンはどんな種類で、どんな環境で育てられ、どのように作られたか〟を語ることができる。それは情報主導型の行為だ。
 そして結果的に、ハンドクラフトの流行は多くの技術と仕事を生み、そして人々をもっと刺激するだろう」

 実際にサンフランシスコでは、ボタンダウンのシャツのオーダーメイド、カスタムメイドが流行していて、さらにオーダーメイド・デニムのお店も何軒かあり、ファッションの関心が、大手の既製品からオーダーやカスタムによる「自分のための服」に移行しているのを感じた。
『カーサブルータス』(マガジンハウス)2012年11月号が、「世界最高のデニム選び」という特集でオーダーメイド・デニムの流行を大きく扱うなど、いわゆる仕事着であったスーツやドレスシャツのオーダーメイドではなく、カジュアルなボタンダウン・シャツやデニム・パンツのオーダーメイドが、人気を得るようになってきている。

 こういった例のように、華美で装飾的ではない、心地よくパーソナルなこだわりを持った「新しい実用主義」が台頭していることを、現地で強く感じた。

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 実用主義が新しい時代の兆候であり、職人の技能が復活している、というのは、なにもファッションに限った話ではない。
 文化の面でもそうだ。

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菅付雅信

生きるうえで大事なことが、変わりました。ネットの進化、そしてソーシャルメディアの爆発的普及によって、テレビや広告などによるイメージ操作は、ほぼ効かなくなったのです。それは、ウソや誇張はすぐに検証され、バレてしまうため。すべての「中身」...もっと読む

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