桃山商事の恋バカ日誌

元カレの思い出が「過去」になる瞬間

「失恋ホスト」として数々の恋愛相談を受けてきた恋バナ収集ユニット「桃山商事」の3人が、新感覚の恋バナ談義を繰り広げるこの連載。「昔の恋人が残した恋愛遺産」の後編となる今回は、テレビの視聴予約のエピソードをもとに、失恋を乗り越える過程について語り合います。

別れた彼が好きだった釣り番組が突然テレビに

【登場人物】

清田隆之
桃山商事・代表
1980年生まれの文筆業

森田雄飛
桃山商事・専務
同じく1980年生まれの会社員

ワッコ
桃山商事・係長
1987年生まれの会社員

森田 ひとつの恋愛が終わった後に残された有形・無形の“恋愛遺産”をテーマにお送りしている今月の恋バナ日誌。中編は、元カノの恋愛遺産を大事に取っておく清田代表の話で盛り上がりました。

ワッコ 髪ゴム、ふせん、手紙などなど、濃密な遺産が詰まった代表の“思い出ボックス”のパンチ力はすごかったですね。

清田 確かに改めて眺めて見ると自分でもキモいかもなって思ったけど、実際にはなんとなく残してるだけなのよ。それを見て感傷に浸ることもないし。

森田 “思い出ボックス”っていう保管システムが、「なんとなく残す」という曖昧な状態を可能にしてるわけだよね。有形の遺産は、決断しないと捨てられないからね。

清田 うっすらとディスられてない?(笑)

森田 や、人それぞれだなあって思ったの。遺産を決断して捨てたっていう話もあるからさ。これは我々のニコ生番組『桃山商事の恋愛よももやまばなし』の常連投稿者「漁師の娘」さんが提供してくれた話で、「テレビの視聴予約」が遺産として残ったというエピソードです。

ワッコ 変わった遺産ですね。

森田 その彼は釣りがすごく好きで、土曜の夕方にやっているテレ東の釣り番組を欠かさず観てたんだって。娘さんの家にいる時も見るのを忘れないように、その番組を視聴予約して自動でつくようにしていた。娘さんも釣りは好きだから、一緒に観てたみたい。

清田 さすがリアル「漁師の娘」(笑)。

森田 ちなみに娘さんのお父さんは、腕のいい金目鯛漁師です。それはさておき、その釣り好きの彼とはいろいろうまくいかなくなって、あるとき別れてしまった。その翌週の土曜日の夕方、娘さんが家にいたら突然テレビがついて例の釣り番組が始まって、びっくりしたんだって。

ワッコ テレビは別れたことを察知してくれないし、空気も読まないですもんね……。

森田 だけど娘さんは、その視聴予約の設定を解除することがどうしてもできなくて、しばらくそのままにしていた。

清田 解除できない気持ちはすごくわかる。できないよ、できないよね……。

ワッコ 清田代表のわかりみが激しい(笑)。

森田 そのまま解除できずに半年くらい経って、年末になった。

清田 毎週土曜の夕方に、釣り番組が自動でつくのかあ。どういう気持ちで観てたんだろう。

森田 途中からは生活の一部みたいになってたらしいよ。でも年末の大掃除をしているときに、ふと「もういいかな」と思い立って、視聴予約を解除したんだって。それで気持ちがスッキリしたと、娘さんは言ってました。

ワッコ 遺産を捨てることができたんですね……。自分ひとりで決断してるところが、すごくいいですよね。もし女友達に相談したら「そんな設定、別れた瞬間に解除しろ!」とか言われると思うんですよ。

清田 他人の恋愛遺産には、みんな厳しいよね。

森田 元の恋人を引きずってることの象徴みたいなところがあるからねえ。

清田 ただ、娘さんの視聴録画は途中から「生活の一部になった」わけだから、「引きずってる」のとは違ったと思うのよ。

ワッコ 確かにそうですね。

清田 引きずってる状態って、その恋愛を自分のなかで本当の意味で「過去」にできていない状態だと思う。そういう状態にある恋愛の思い出の品は、“恋愛遺産”とはちょっと違うような気もする。

森田 なるほど。清田の“思い出ボックス”も娘さんの視聴予約も、どちらも「過去」になってる感じはするよね。それを見て元カノや元カレのことを思い出すかもしれないけど、悲しみや感傷は伴ってない感じ。


土曜日の夕方、突然ついた釣り番組に驚く漁師の娘さん

「思い出しても辛くない」Remember型の記憶

清田 これは「当事者研究」に携わり、『ひとりで苦しまないための「痛みの哲学」』などの著書がある、医師の熊谷晋一郎さんに聞いた話なんだけど、痛みの記憶には2つのフェーズがあって、それは英語でいうrememberとknowの違いなんだって。

ワッコ rememberは「思い出す」だからわかりますけど、knowは「知っている」って意味ですよね? 痛みの記憶とどう関係が?

清田 rememberってのは、すでに自分の中で意味づけや分析が完了していて「過去のこと」として保管されている記憶を、記憶の箱から取り出す作業なんだって。一方のknowは、過去のことではあるけれど、まだ整理もタグづけも済んでおらず、どこにしまっていいかわからない記憶を思い出すイメージだとか。こちらは「過去のこと」ではなく、まるで「現在のこと」のように知覚される。わかりやすいところで言えば、フラッシュバックはknowなんだって。あとは、たとえば中学の時のイタい思い出が頭に浮かんで、恥ずかしくなることってあるじゃない?

ワッコ 死にたくなることありますよね。

森田 あるある。

清田 ああいう感じが、knowとして思い出している状態のイメージ。

ワッコ なるほどー。つまりrememberで思い出すのはすでに整理がついていることで、knowはそれができてない記憶が引き出されるってことなわけですね。整理も決着もできてないから、引き出されると死にたくなるという。

清田 パソコンでいうと、フォルダにきっちり整理されて格納されてるファイルがremember型の記憶で、デスクトップにとっちらかったファイルがknow型の記憶って感じになるのかな。

ワッコ その喩えめっちゃわかりやすいです。

森田 清田の“思い出ボックス”はまさにフォルダそのものだもんね。

清田 だからあれはrememberだと自分では思っているんだけど……どうなんだろう。

ワッコ 娘さんの視聴予約は、途中まではknowだったんだけど、ある時点でrememberに変わったってことになるんですかね。

清田 そうだと思う。「失恋を乗り越えること」って、一般的には「その恋愛を忘れること」ってイメージがあると思うんだけど、そうではなくて、「思い出しても辛くならないこと」が失恋の終わりだと俺は思っていて。それってつまり失恋の痛みがrememberになるってことなんだよ。だから漁師の娘さんは、失恋に半年かけて向き合って、ようやく乗り越えられたんだと思う。

森田 清田は6年付き合った彼女との失恋を3年引きずって、週3回も彼女の夢を見続けただけに、失恋を語らせると言葉に説得力があるよね(笑)。

清田 knowな記憶と向き合った3年間だったので……。

元カレにもらったMacBook Airで仕事をする
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桃山商事の恋バカ日誌

森田雄飛(桃山商事) /清田隆之(桃山商事) /ワッコ(桃山商事)

2001年の結成以来、「失恋ホスト」として1000人以上の男女から恋のお悩みやエピソードを聞き続けてきた恋バナ収集ユニット「桃山商事」がお届けする、新感覚の恋バナ談義。普段ほとんど語れることのない恋愛の様々なテーマを毎回ひとつ取り上げ...もっと読む

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コメント

evergreen0114 なるほど!knowからremember になるって、わかる〜 3ヶ月前 replyretweetfavorite

AmanonG2 「痛みの記憶には2つのフェーズがあって、それは英語でいうrememberとknowの違いなんだって。」 なるほどなあ。遺産話のわかりみ...。 https://t.co/N6EmesDLSt 9ヶ月前 replyretweetfavorite

momoyama_radio 失恋の終わりとは、相手を忘れることじゃなく、「相手のことを思い出してもつらくなくなることだ!」という話を熱く語っておりますのでぜひ! https://t.co/9sUVywDv9e 9ヶ月前 replyretweetfavorite