柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和「レトロゲームファクトリー」第23回

レトロゲームを最新機用に移植する会社「レトロゲームファクトリー」。社長の灰江田直樹とプログラマーの白野高義(コーギー)は、ファミコン時代の名作「UGOコレクション」全十本の移植という大きな依頼を受ける。ただ、実現には大きな障害があった。それは最後のゲーム「Aホークツイン」の権利だけを買い取った、開発者の赤瀬裕吾が行方不明であること。二人は赤瀬探しに奔走する。
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 画面に、映画のエンドロールのようなゲーム画像が、いくつか表示される。すべてアルファベットで書いてある。
「UGOブランドのゲームは、全ステージクリア時にスタッフロールが入っています。当時の資料を見ていて気づいたんですが、これ、実際に関わった人よりも多いんですよ」  
 コーギーは、UGOブランドの攻略サイトを運営している。すべてのゲームをクリアして、そのときの様子を記録しているのだろう。
「やたら職種が細かく、たくさんの人の名前が並んでいるな」
「ええ、でもほとんどのゲームは、三、四人で作っています」
「つまり、名前が違うだけで同じ人間が兼務しているわけか」
「はい。一人で複数の名義を使っています。とはいえ、パターンは限られていて重複しているものも多いです。この中から海外での名前を採用した可能性もあると思うんです」  
 なるほど。人間は同じような行動を繰り返す。別天地で同じことをしてもおかしくない。灰江田は、片っ端から検索しろとコーギーに指示を出す。検索結果を二人で検討しながら、年齢や性別、活動内容から、赤瀬かどうか判断していく。
「くそっ、ないな」  
 全部調べ終わった。しかし赤瀬は見つからない。この線では無理か。頭をかきむしりながら考える。自信満々だったコーギーは、冷蔵庫に入れっぱなしだったホウレンソウのように、しょんぼりしている。
 ペンネーム。その言葉が頭に浮かぶ。雑誌のインタビュー。赤瀬はゲームの発売ごとに、いろいろな名前で誌面に登場していた。スタッフロールで使っていた以外にも、気に入った名前がありそうだ。灰江田は、スマートフォンを出して山崎を呼び出す。
「灰江田です。白鳳アミューズメントの商品が掲載された雑誌って、そちらですべてアーカイブしていますか」
「資料室に行けばあるよ。ほとんど残してあるはずだから」
「ちょっと伺って、調べ物をしていいですか」
「いいけど、UGOブランドになにか関係があるの」
「ええ」
「分かった。いつでも入れるようにしておくから」
 灰江田は礼を言い、電話を切った。
「行ってくる」
「吉報を待っています」
 殊勝そうにコーギーは言う。
「なあ、コーギー」
 出かける前に灰江田は、少し改まって声をかけた。
「なんですか灰江田さん」
「昨日、グリムギルドの橘から電話があったそうだな。なにかあったのか」
 小細工しても仕方がない。そう思い、ストレートに尋ねる。
「あっ、いえ、なんでもないです」
 コーギーは、手をぱたぱたと振りながら答える。
 そうか、なんでもないのか。そんなわけねえだろうが。疑いが胸の中で大きくなる。
 灰江田は、自分が橘ならどうするか考える。いまの灰江田に、最もダメージを与える方法は、コーギーの引き抜きだ。エース級の開発者が抜ければ、十本のゲームをまとめて移植するのは困難になる。そして精神的なダメージを負ったまま、新しい仕事を探さなければならなくなる。
 だからといって自分の利益のためにコーギーを縛る権利はない。金を儲けられないのなら、いつまでも引き留めていては駄目だ。コーギーだって食っていかなければならない。灰江田の妙なこだわりで、破産に付き合わせるわけにはいかない。
 灰江田への当てつけとはいえ、橘が拾ってくれるのなら文句は言えない。向こうは大会社。こちらは明日の日銭にも苦労している小さな会社だ。
「なんでもないんなら、いいんだよ」
 灰江田は無理やり笑顔を作り、荷物をまとめる。そして、白鳳アミューズメントに行くために事務所をあとにした。

 白鳳アミューズメントの資料室。金属ラックが並ぶ、ほこりっぽい部屋。その場所で灰江田はスーツを脱ぎ、雑誌の束を机に置き、当時の誌面を確認している。四大ファミコン雑誌──ファミコン通信、ファミリーコンピュータMagazine、マル勝ファミコン、ファミコン必勝本──を中心に探索をおこなう。赤瀬に関する記事が見つかると、スマートフォンで写真を撮り、コーギーに送る。灰江田自身は、名前をノートパソコンで検索する。そうしたことを、すでに一時間以上続けている。
「くそっ、こいつも外れか」
 愚痴をこぼして次の一冊を手に取った。赤瀬は時期によって様々なニックネームで登場している。毎回名前を変えることは、遊び感覚でやっていたのだろう。
 ──Hugo Axe
 新しく開いた雑誌に、赤瀬がその名前で登場していた。Hugoは、ヒューゴー以外にも、ウゴやフーゴー、ユーゴーやユゴーと読む。Axeは、赤瀬を略したAKSから取ったものだろう。斧という単語は、アメリカ英語ではAx、イギリス英語ではAxeとなる。そしてファンタジー世界を舞台にしたゲームでは、Axeの綴りが使われることが多い。おそらく、中世ヨーロッパの世界観を意識してのことだ。赤瀬はゲーム開発者だから、こちらの綴りを自然と選んだのだろう。
 ヒューゴー・アックスの名前をノートパソコンに打ち込み検索する。シリコンバレーの起業家の名前がヒットした。顔写真はない。自分の姿をネットに公開しない主義なのかもしれない。ヒューゴーの会社を調べる。アルゴ・エド。教育向けソフトウェア会社で、子供向けGUIプログラミング環境を、無償で配布している。世界各地の学校などで採用されており、関連商材やノウハウの販売が主な事業のようだ。
 灰江田はヒューゴーの経歴を探す。なかなか見つからない。会社自体の情報は豊富に出てくるので、意図的に自身の情報を隠しているのではないかと疑いたくなる。会社を作ったのは十三年前。それよりも前の時期にしぼり、ヒューゴー・アックスについてたどってみる。
 情報が見つかった。古いネットの情報を保存しているインターネットアーカイブというサイトに、すでに倒産した会社のホームページが残っていた。マジック・エデュケーション。教育向けソフトウェア会社で、十五年前に倒産している。この会社にヒューゴーは二十一年前に入社していた。
 ホームページには社員のプロフィールのページがある。しかし、画像があるべき場所には、リンク切れを示す表示が並んでいる。インターネットアーカイブでサイトを見ると、画像が喪失していることが多い。ヒューゴーのところにも肝心の写真はなかった。赤瀬かどうか分からない。もっと情報はないかとリンクをたどるが見つからない。灰江田はスマートフォンを出してコーギーに電話する。調査の内容を交えて、ヒューゴー・アックスという人物について伝えた。
「分かりました。この先は僕が調べます」
「おいおい、どうやって調べるんだよ」

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新潮社
2018-05-18

この連載について

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柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和 /新潮社yom yom編集部

失踪した伝説的ゲームクリエイターの謎を追え――。 『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』で小説家デビューを果たした プログラマー・ゲーム開発者が贈る、本格ゲーム業界小説! 電子書籍文芸誌「yom yom」に...もっと読む

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