第233回 転んだ椅子(前編)

「「おもしろーい! なにこの《うまくはまる》感じ!」というユーリ。今度はいったい何を見つけたの?「群とシンメトリー」シーズン第2章前編。

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

$ \newcommand{\UL}[1]{\underline{#1}} $

僕の部屋

ユーリはサイコロの置き方についておしゃべりをしている。

面を東西南北に向ける《サイコロの置き方が$24$通りあること》と、 《$4$個のものを並べる順列が$24$通りあること》の関係を調べているところ(第231回参照)。

サイコロの回転軸を工夫することでいったん納得した(第232回参照)。でも……

ユーリ「いやー、うまく行くもんだねー。回転を考えると$24 = 4 \times 3 \times 2 \times 1$が出てきてすっきりした!」

  • 場所$1$に来る頂点が$4$通り選べる(上下を結ぶ軸の回転)。そのそれぞれに対して、
  • 場所$2$に来る頂点が$3$通り選べる(対角線を結ぶ軸の回転)。そのそれぞれに対して、
  • 場所$3$に来る頂点が$2$通り選べる(辺の中点を結ぶ軸の回転)。そのそれぞれに対して、
  • 場所$4$に来る頂点が$1$通り選べる(自動的に決定)。

$3$種類の回転軸

「うん、それはユーリが《わからない》と言い続けてくれたからだよ。だから、すっきりした説明を探すことができたんだ。ただ……気になることがある」

ユーリ「へ? まだ?」

「うん。頂点の名前の付け方が気になっている」

ユーリ「$A,B,C,D,A',B',C',D'$でしょ?」

「そうなんだけどね。僕たちは、立方体の置き方が$24$通りあるということを調べている。ユーリは$24 = 4 \times 3 \times 2 \times 1 = 4!$になるということに気付いた。 だから、《サイコロの置き方》を《$A,B,C,D$という$4$個のものの順列》で表現できないかと考えていた」

ユーリ「だから、それ、確かめたじゃん。お兄ちゃんが言ったんだよ。机の上に接する頂点$4$個の並び替えだと思えばいいって」

「ちょうど対角線の位置にある点の組を$A$と$A'$のように名前を付けたけど、それがどうも気になるんだよ。ご都合主義っぽくて」

ユーリ「……」

「……」

ユーリ「うーん……お兄ちゃんは何を気にしてるの?」

「もっと、もっと明確に《$4$個のものの順列》を確かめたいということ」

ユーリ「机の上に$1,2,3,4$という$4$つの場所があって、そこに$A,B,C,D$という$4$個のものを並べて置くだけじゃなく?」

「そういうこと」

ユーリ「$4$つの場所に$4$個のものを置けばいいんだよね?」

「その通り! お、ユーリは何かいいアイディアがあるの?」

ユーリ「ない」

「なんだ」

ユーリ「でもさー、立方体なんだから、面か、辺か、頂点しかないじゃん?」

「……いや、ちょっと待った」

ユーリ「さっきから待ってんだけど」

対角線を並べ替えるというのはどうだろうか。そうだよ!最初からわかってたことじゃないか。$A$と$A'$という対角線の位置にある二つの頂点を同一視するって!」

ユーリ「対角線を並べ替える……って意味わかんない」

「立方体の対角線は全部で$4$本あるよね。ここでは、立方体の中央を通る対角線のことだよ。立方体の置き方をどう変えても、$4$本の対角線が来る場所はいつも決まっている。 だから、そこを《対角線が来る$4$つの場所》として$1,2,3,4$と番号を付ける」

対角線が来る$4$つの場所$1,2,3,4$

ユーリ「おー……」

「そして、具体的なサイコロの$4$本の対角線に$A,B,C,D$と名前を付ける。うん、これでうまくいく!対角線上にある二つの頂点$A,A'$を結ぶ線分を考えることは、うまいこと同一視してることになるんだ!」

$4$本の対角線$A,B,C,D$

ユーリ「えーと?」

「場所$1,2,3,4$のそれぞれに、対角線$A,B,C,D$のどれが来るかを考えるということだよ。たとえば、$1,2,3,4$に$A,B,C,D$が来る置き方を$ABCD$と呼ぶし、 $1,2,3,4$に$B,C,D,A$が来る置き方を$BCDA$と呼ぶことにしよう」

$ABCD$の置き方と、$BCDA$の置き方

「うん、これで心置きなく、$\prime$の記号を取り除くことができる。$4$つの場所$1,2,3,4$に対して、$4$本の対角線$A,B,C,D$のどれがやって来るかを考える。 サイコロの$24$通りの置き方には、$A,B,C,D$の順列によって名前を付けることができるんだ!」

サイコロの置き方$24$通りと、対角線の並べ方の名前付けの対応表

ユーリ「あたりまえだけど……不思議だにゃあ。回転の軸のことを考えるとうまいこと$24$通りになるのはあたりまえだけど、 この表を見てると不思議。うまいこと、ぴったり、はまる。それが不思議」

「そうだねえ」

ユーリ「はっ!! ねねね、お兄ちゃん。回したらどーなるの?」

「何を回すって?」

ユーリ「サイコロを回転軸で回すと、この対応表でジャンプするわけじゃん?回転軸が変わるとジャンプ先が変わるよね。どんな形がでてくる?」

「なるほど、それはおもしろそうだな。たとえば、$ABCD$をひとつの対角線でまわすと、$$ ABCD \to CABD \to BCAD \to ABCD \to CABD \to BCAD \to \cdots $$ とジャンプするね。$ABCD,CABD,BCAD$を結ぶ三角形だ」

ユーリ「え、どれどれ? ちゃんと表に描いてよー」

「こういう三角形になるということ」

$ABCD,CABD,BCAD$を結ぶ三角形

ユーリ「ほほー……これって、対角線$D$を回転軸にした場合だね?」

「そうだね。対角線$D$を回転軸にしたともいえるし、場所$4$にある対角線を回転軸にしたともいえる。うん、回転軸になっている$D$は場所$4$から動かない。$D$は動かないで、$A,B,C$が順にズレていってる」

$$ \UL{ABC}D \to \UL{CAB}D \to \UL{BCA}D \to \cdots $$

ユーリ「ふんふん。$ABCD$から始めたからこーゆー三角形だけど、隣の$BCDA$から始めて、場所$4$にある対角線$A$で同じことやったら、別の三角形になるよね」

「そうだね!今度は$A$が場所$4$から動かないで、$B,C,D$が順にズレていくはず」

$$ \UL{BCD}A \to \UL{CDB}A \to \UL{DBC}A \to \cdots $$

$BCDA,CDBA,DBCA$を結ぶ三角形

ユーリ「そして次は……」

こんなふうにして僕たちは場所$4$にある対角線を回転させたようすを対応表に描いていった……

「できたできた……」

場所$4$の対角線で回転

ユーリ「できたけど……図に描けばわかりやすくなるわけでもないね!ごちゃごちゃしただけじゃん!こないだテレビでやってた『シン・ゴジラ』にこういう図出てこなかったっけ」

「ゴジラの構造解析図だね!……おほん、時事ネタ自重。確かにごちゃごちゃしてるけど、対称性はあるね」

ユーリ「対称性って?」

「つまりね、でたらめに線が引かれているわけじゃないってこと。たとえば、$$ \UL{ABC}D \to \UL{CAB}D \to \UL{BCA}D $$ の三角形とちょうど線対称の位置に、 $$ \UL{BAC}D \to \UL{ACB}D \to \UL{CBA}D $$ という三角形が描かれている。どちらも対角線$D$が動かない三角形だね」

対角線$D$が場所$4$から動かない三角形二つ

ユーリ「ほんとだ……」

「他の三角形たちも、ペアがいるよ」

対角線$A$が場所$4$から動かない三角形二つ

対角線$C$が場所$4$から動かない三角形二つ

対角線$B$が場所$4$から動かない三角形二つ

ユーリ「あっ、これって《左手の世界》と《右手の世界》だね(第232回参照)。この二つの三角形は、サイコロをこっちから見るか、むこうから見るかの違い?」

「そういうことだねえ。あ、じゃあクイズ。この二つの三角形を行き来するにはどういう回転をしたらいい?」

ユーリ「行き来するって意味がわかんない」

「そうか。もっと正確にいうと、$ABCD$という置き方から、$BACD$という置き方にジャンプするにはどういう回転になる?」

クイズ

$ABCD$という置き方から、$BACD$という置き方にジャンプするには、サイコロをどう回転すればいいか。

$$ ABCD \to BACD $$

ユーリ「むむむ……」

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結城浩

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コメント

chibio6 前回のちょっともやっとしていたところがよく理解できた。図示するととてもわかりやすい。 2ヶ月前 replyretweetfavorite

bon_puyo ちょうどガロア巻を読み直していた所なので「ぐるりん」「どんでん」だなぁと。立方体以外の正多面体で同じように図を作って見たくなりますね。 2ヶ月前 replyretweetfavorite

asangi_a4ac ところでそもそもこの表はどうやって作ったのだろう https://t.co/YUSCq7cfBN 2ヶ月前 replyretweetfavorite

wed7931 立体図形そのものを動かして対称性を観察して群の構造を見る。こんなにしっかりと観察したことがないので、次回以降が楽しみ。 2ヶ月前 replyretweetfavorite