左から、前野健太、文月悠光、司会の北沢夏音
現実世界でうまくいかなかったことを作品の中で再演する
前野 「恋はすべてどこまでも片思いだ」という今日のテーマにやっと触れますけど……文月さんは感情をきちんとその人に伝えている感じがするんです。身近な人のことを全然書いていないとおっしゃっていたけれど、身近な人に、すごく感情を投影しているんじゃないかなと。
文月 「伝えている」というのは意外でした。作品の上では、相手と向き合うために書いているので、「ここで流してどうする」と真剣になるのかもしれませんね。
現実世界でうまくいかなかったことを作品の中で再演しようと思って書いてるんです。「こうだったら良いのに」と憧れている。だから、詩集『わたしたちの猫』ができあがった時に、まるですごくきれいな恋愛をしたみたいだなと(笑)。
前野 うんうん。
文月 恋愛って、自分の実生活において、特に優先順位が高いほうではなかった。だから、編集者の方から恋愛についての詩を書いてくださいと言われた時は戸惑いました。当時はまだ恋愛詩と呼ばれるものに苦手意識があったんです。前野さんはラブソングをつくってくださいという依頼があったら、どうしますか。嬉々としてつくりますか?
前野 まあ、まず女性にメールを打ちますよね。
文月 そこから?
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