●テレビアニメと連動しての三作
『デビルマン』のテレビアニメは九か月・三九回で終了し、続編が作られることもなかったが、『マジンガーZ』は長寿シリーズとなった。
『マジンガーZ』のテレビアニメ版はずっとフジテレビの日曜夜七時に放映されていたが、マンガの掲載誌は一九七三年八月に「少年ジャンプ」から「テレビマガジン」へと移るという事件が起きた。
「少年ジャンプ」は集英社、つまり小学館グループの雑誌で、「テレビマガジン」は講談社の雑誌である。この移籍は、シーズンの途中で巨人から阪神へトレードされるようなもので、普通はありえない。よっぽどの「大人の事情」があったとしか考えられない。
自伝的マンガ『激マン!』がこの事情について詳しく描いており、それと、永井豪へのインタビューなどによって判明したのは以下の「大人の事情」だ。
『マジンガーZ』のテレビアニメは視聴率もよく、マジンガーZの玩具もよく売れていた。七三年夏には劇場用アニメとして『マジンガーZ対デビルマン』も作られ、東映まんがまつりで上映され、ますます人気が出ていた。マジンガーZは空を飛べるようにもなった。
そこで、さらに玩具を売りたいという希望が、アニメ制作サイドから出た。
玩具やお菓子のメーカーは番組のスポンサーでもあるので、発言力が強い。とくに『マジンガーZ』の場合、「超合金」と称した玩具が大ヒットしていた。
玩具を買うのは(親に買ってもらうわけだが)幼稚園児か小学校低学年までで、「少年ジャンプ」の読者層よりもさらに下になる。そこで、アニメ番組を担当している広告代理店の旭通信社(現・アサツー ディ・ケイ)から、「少年ジャンプ」以外の、低年齢層向けの雑誌でも連載してくれないかとの要請が来たのだ。
候補となったのは、講談社の月刊「テレビマガジン」だった。この雑誌は『仮面ライダー』のために生まれたような雑誌だったが、読者層は『マジンガーZ』の視聴者でもあるので、ぴったりだった。
●『マジンガーZ』移籍
しかし、「テレビマガジン」を出している講談社は、「少年ジャンプ」の集英社が属する小学館グループのライバルである。「少年ジャンプ」がライバル会社の雑誌に同時に連載することを許すかどうか。
「少年ジャンプ」と交渉してみると、どこであろうと「少年ジャンプ」以外に連載するのは許せないという回答だった。小学館の学年誌はどうかと言うと、それもダメで、それどころか、編集長からは「少年ジャンプ」の連載を止めて「テレビマガジン」で連載するようにと通告されてしまった。
永井豪は「少年ジャンプ」での連載を止めることにした。こうして一九六八年八月の創刊号の『ハレンチ学園』に始まった、永井豪と「少年ジャンプ」との関係も五年で終わった。
一九七三年八月一三日号が「少年ジャンプ」版『マジンガーZ』の最終回となった。とりあえず大きな戦いは終わった。しかし、まだドクター地獄は滅んでいない。最後の見開きページには、「真の戦いはこれからはじまろうとしていた! 戦え 甲児! 戦え マジンガーZ、人類の未来のために!」と書かれ、その欄外に、永井豪が登場して、「いろんな都合により、今回で終わりにさせてもらうでガスよ」「でも、ご安心!」「このつづきのストーリーはテレビでやっていくでガスよ」とある。
さすがに、「テレビマガジン」で連載するとは書かれていない。当時、どの程度の子が「少年ジャンプ」から「テレビマガジン」へ移行したのだろう。
「テレビマガジン」での『マジンガーZ』は九月発売の七三年一〇月号から始まった。
「少年ジャンプ」では一回あたり二〇ページ前後で週刊なので一か月では約八〇ページだったが、「テレビマガジン」は月刊で一回あたり二〇ページ前後となった。さらに、絵柄も含めて子供っぽくなっている。
●『ドロロンえん魔くん』『キューティーハニー』
一九七三年一〇月号から『マジンガーZ』が「テレビマガジン」に移るとのほぼ同時に、「少年サンデー」で『ドロロンえん魔くん』、「少年チャンピオン」で『キューティーハニー』の連載が始まった。「少年マガジン」では七月から『バイオレンスジャック』が始まっており、これで週刊誌三誌、月刊誌一誌という体制になる。
『デビルマン』『マジンガーZ』が相次いで成功したことで、永井豪は『ハレンチ学園』のイメージから脱却したが、ギャグマンガの名手であることも世間は忘れていなかった。『ドロロンえん魔くん』は当時流行していた妖怪ものの一種ではあるが、ギャグの要素も強い。『キューティーハニー』はセクシー系SFアクションだ。
この二作とも、テレビアニメの企画も同時に進んでおり、『ドロロンえん魔くん』はフジテレビの木曜夜七時の枠で一九七三年一〇月から七四年三月まで半年間、『キューティーハニー』はNETの土曜夜八時半からという『デビルマン』が放映されていた枠で、七三年一〇月から七四年三月まで放映された。つまりこの半年間は『マジンガーZ』と合わせて永井豪作品三作がテレビで放映されていたのだ。
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