中島岳志(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授)
保守とリベラル
一方、現代的な意味での「リベラル」という観念は、ヨーロッパにおいて宗教対立を乗り越えようとする営為の中から生まれたものでした。17世紀の前半、ヨーロッパは三十年戦争という泥沼の宗教戦争(カソリックvsプロテスタント)を経験しました。ヨーロッパ人は宗教的な価値観の違いをめぐって、約30年にもわたる戦争を行ったのです。この戦争が終結した時、これ以上、価値観の問題で争うことを避けるため、異なる他者への「寛容」の精神が重要だという議論になりました。この「寛容」が、「リベラル」の起源です。自分とは相容れない価値観であっても、まずは相手の立場を認め、寛容になること。個人の価値観については、権力から介入されず、自由が保障されること。この原則がリベラルの原点であり、重要なポイントとなりました。
「リベラル」の原理は、保守思想と極めて親和的です。繰り返しになりますが、保守は懐疑主義的な人間観を共有します。もちろん、この人間観は、他ならない自分にも向けられます。自分の考えや主張は、完全なものではない。間違いや事実誤認が含まれているかもしれない。自分が見逃している視点があるかもしれない。もっといい解決策があるかもしれない。そのように自分に対する懐疑の念が生れると、当然、他者の声に耳を傾け、自己の見解に磨きをかけようとします。間違いがあれば修正し、少数者の主張に理があれば、その意見を取り入れて合意形成をしようとします。保守の懐疑主義は、他者との対話や寛容を促します。
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