腹いっぱいの涙

大好評の作家・王谷晶さんの「女のカラダ」を考えるエッセイ連載、第3回目。今回のテーマは「腹」。現代社会はどこを向いてもなにかとダイエット推奨、「デブ」を自己申告するだけでも、無駄に慰められてしまう世知辛さ。さらに女の「腹」には様々なものがつきまといます。そんな中、王谷さんが考えることとは……結果にコミットする、怒りの「腹」エッセイ!


ソップなのアンコなのどっちが好きなの

正味な話、刃渡り10センチ以内なら刺されても死なない自信がある。なぜなら腹に相当しっかり脂肪が付いているから。と言うとリアルで会ったことの無い優しい人が「そんなことないでしょう」とフォローしてくれたりするのだが、これは嘘偽りない事実である。私は身長さえあれば新弟子検査に一発合格間違いなしの体躯をしている。ソップかアンコかでいえば確実にアンコだ。まあ女は土俵上がれないらしいんですけど。それはいいとして、気になるのは「腹に肉がついている」と言ったときの、「でもお元気そうだから」とか「気にすることないよ」みたいな慰めのお言葉だ。なぜ、慰められてしまうのか。

2018年の現在も、この社会では太っていることは「ダメなこと」のカテゴリにバリバリに入れられているっぽい。最近はボディ・ポジティブというスローガンやプラスサイズモデルの台頭などで風当たりはやや柔らかくなってきた感はあるが、それでもなお「デブ」というのは罵倒語のトップクラスに輝いている。反面、近年は超スレンダーなモデルや俳優も「不健康的」と非難される場面が増えてきた。それっていいことか? 一介の過体重として意見すると、特別にいいこととは思えない。「そもそも他人の体型について外野が口出すなや」がマイ・オピニオンだ。

吸引力の変わらないただひとつの信念

今年の頭、拙著の刊行記念に僭越ながらトークショーというものをやらせていただいた。人前に「王谷晶」として生身の姿を晒す初めての経験。THE・初体験である。実は当初は相当ビビってて、でかいグラサンかマスクでもしようかと本気でポプラ社担当Y氏と協議していた。自分の外見はけっこう好きなんだけど、一抹の不安はどうしてもあったのだ。「こんなやつが作者なのかよ」とがっかりされたらどうしよう……と。

でもその時出した本(このページの下にもリンクが貼ってあるやつです)(宣伝)は女子が生活していくうちにホコリのように降り積もってしまう自己否定や抑圧をダイソンの掃除機のように吸引してポイッと捨てたろう、と思って書いたので、その信念を自分で裏切らないためにも思い切って顔丸出しで挑むことにした。普段以上にハデな服も用意して、メイクも気合を入れて特濃にした。

フェイス・トゥ・フェイス、ティアーズ・フォー・フィアーズ

当日の会場は満席で、トークも随所でウケて、かなり盛り上がったまま無事終了した。当たり前だけど、お客さんは私の容姿などほぼどーでもよく、一緒に登壇していただいたBL研究家の金田淳子先生や私の話をただ聞きに来てくれたのだ。

でも、最初にアンケート用紙を配布して質問やメッセージを寄せてもらったのだけど、容姿や体型、特に太っていることに関する悩みが複数件あった。中でも「太っている自分を肯定したいのですがどうすればよいでしょうか」という質問を読んだときに、顔出ししてよかったと心から思えたのだった。

太っている私が自分を肯定しているように見えたから(実際してる)、この方はこういう質問を書いてくれたんだろう。何かのロールモデルになろうなんて大それた事は考えていないけど、「太ってて堂々としてるやつ」としてその人の眼の前に出現することができたの、めっちゃ嬉しいと思った。勝手な思い込みかもしれないけど、その質問で私の方が救われた気になったのだ。

見た目の話じゃないのよ

体型の話って、結局はただのボディラインの話ではなくて、尊厳と自尊心の話なんすよね。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
どうせカラダが目当てでしょ

王谷晶

脱・ライフハック! 脱・ヘルシー! ウェルカム非生産! 「鏡よ鏡、この世でいちばん美しいのはだあれ?」女子なら一度はかけられる呪い。でもその美しさって本当は誰のためのもの? “女と女が主人公”の短編集『完璧じゃない、あたしたち』が...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

youyakuya もうこの一文が卵かけご飯ぐらいすき >若い頃は、ヒトというのは時間が経過すれば自動的に「未来」に行けるのだと思っていた。でもそうじゃないのが分かってきた。ボーッとしてたら、進化はでけんのだ。 @tori7810 https://t.co/vPj6iFbIXL 約1年前 replyretweetfavorite

Madorena2u 「借り腹」はDNAの鎖から離れたい親や子自身の絞り出す発想かもしれませんが。 1年以上前 replyretweetfavorite

takanayomogi > 体型の話って、結局はただのボディラインの話ではなくて、尊厳と自尊心の話なんすよね。 毎度全俺が泣いた。… https://t.co/XA5cMULmyw 1年以上前 replyretweetfavorite

taquico84 「体型の話って、結局はただのボディラインの話ではなくて、尊厳と自尊心の話なんすよね。」これ本当にそうで、10代のわたしは自分が着られる気に入った服がなくて、よ… https://t.co/Lcwq0DYeYJ 1年以上前 replyretweetfavorite