自分の親が性的孤独に陥っている」日本

結婚は「個人の多様な生き方や価値観に対応できるような制度」になっていないのかもしれません。日本において結婚は異性愛者同士でないとできず、夫婦別姓も選択不可能。女性のみに再婚禁止期間もある。配偶者以外との恋愛やセックスはタブー。子どもが生まれた場合、育児負担と教育費が重くのしかかり、別れる際も相当な精神的・時間的・金銭的負担(慰謝料や養育費)がかかる……と坂爪さんは分析します。今回は、制度疲労を起こしている現在の「結婚」に迫ります! 『孤独とセックス』家庭バージョンです!

孤独と家族・結婚

【18歳の問い⑨】  
結婚する意味や意義が分かりません。自分の親を見ていても、とっくの昔に関係が冷え切っていて、ロクに会話もしていない家庭内別居の状況。将来自分が結婚しても、幸せになれるとはとても思えません。子どもを育てるのも大変そうだし、本当に結婚しなければいけないのでしょうか?

●結婚はコスパが悪い?

あなたと同じように、「両親の関係が全く魅力的に見えない」「結婚することに意義を見出せない」と感じている18歳男子は少なくないと思います。

1980年代までは、日本は「皆婚社会」と呼ばれていました。男女の生涯未婚率(50歳の時点で結婚経験の無い人の割合)はいずれも5%未満で、ほとんどの人が当たり前のように結婚していました。

しかし、2015年の生涯未婚率は、男性23・4%、女性14・1%まで上昇しています。2030年には、生涯未婚率は男性の約3割、女性の約2割に達すると予測されています。

こうした社会情勢の中で、「ある程度の年齢になったら結婚する」「結婚したら子どもを作る」といった価値観は、若者世代の間では大きく揺らいでいます。

確かに現代社会においては、結婚という制度自体が、硬直性が非常に高く、コストパフォーマンスも悪いものになっているという事実は否めません。

異性愛者同士でないとできない。夫婦別姓も選択不可能。女性のみに再婚禁止期間もある。一度結婚すれば、配偶者以外の相手との恋愛やセックスは禁止。子どもが生まれた場合、育児負担と教育費が重くのしかかる。別れる際にも相当な精神的・時間的・金銭的負担(慰謝料や養育費)がかかる。つまり、個人の多様な生き方や価値観に対応できるような制度になっていないわけです。

多様性に耐えうる制度にできるよう、夫婦別姓や同性婚、パートナーシップ制度など他国で認められている制度を日本でも導入しようという動きはありますが、少なくとも短期的には実現の可能性は低いでしょう。

●諸刃の剣としての結婚

結婚が制度疲労を起こしている一方で、それに代わるオルタナティブな制度が無い。こうした状況下で、孤独に追いやられる人は増え続けています。

既存の制度の中で愛するパートナーとの暮らしを実現することができずに孤独になってしまう人、あるいは結婚による退職や出産・育児によって社会とのつながりを失い、かえって孤独になってしまう人もいます。

また「結婚することのできた私たちは偉いが、できなかったお前たちはダメ人間だ」というように、結婚が人格の評価やマウンティングの材料に使われてしまうこともあります。そして、結婚できたことをドヤ顔で自慢する人たちが、幸せな結婚生活を送っているのかと言えば、必ずしもそうではない。

「日本人であること」以外に誇れる点が何も無いために、Twitter で排外主義的な言動をまき散らすネット右翼のように、「結婚していること」以外に誇れる点が無いため、結婚していない誰かを叩くことで自己肯定感を満たすという不毛な振る舞いを繰り返している「結婚右翼」も少なくありません。

こうした状況下では、「結婚する意味そのものがわからない」という18歳男子が増えることは必然だと言えます。結婚という名の罰ゲームにわざわざ参戦するよりは、独身で居続けるほうが楽、AV・アニメ・ゲームなど、男性の性的欲求や承認欲求を満たすためだけに作り込まれた商品やメディアに耽溺しているほうが圧倒的に楽、という人は多数存在します。

結婚は社会システム維持のための制度であって、必ずしも個人の幸福のための制度ではありません。それによって社会と制度的につながることのできるメリットがある反面、逆に社会からの孤立を招いてしまうリスクもはらんでいる「諸刃の剣」です。現在は、結婚のリスクやコストの側面だけが目立ってしまう時代なのかもしれません。

●イクメンブルーに悩む男性

結婚と同様、子どもを持つことも「諸刃の剣」です。子どもを持つことは自己肯定感を獲得するための究極の手段になり得ます。「自分がいなければ生きていけない存在」に頼られることで、毎日の暮らしに明確な使命や目標が生まれる。

ある女性障がい者の人は、自己肯定感が低く、社会から排除されがちな障がい者にとって、子どもを持つことが「最大の社会参加」になると語っていました。

子どもが生まれれば、女性として・母親として自己肯定感は一気に上がる。そして、否が応でも多くの人の手を借りて生活せざるを得なくなる。そして仮に自分が働くことができなくても、将来子どもが代わりに働いて、納税してくれる。社会とつながりづらい立場にある人が、社会とつながるための手段が子どもである、という見方もできます。

その一方で、逆に子どもが原因で社会的に孤立してしまうこともあります。育児は多大な時間的・経済的・精神的負担を伴います。そうした負担が積み重なって、親が社会的に孤立した状態に追い込まれてしまうことも起こります。

近年は、仕事と育児を両立する男性=「イクメン」がもてはやされています。実際に、仕事一辺倒の生活を送るのではなく、育児や家事にも積極的に関わりたい、と考える男性は増えています。

しかし、長時間労働などの旧態依然とした働き方、そして男性が仕事をセーブして育児に参加することへの職場の無理解が変わらないまま、男性の育児・家事負担だけが増えることで、「イクメンブルー」や「パタニティブルー」と呼ばれる「夫の産後うつ」が問題化されるようになっています。

2016年に国立成育医療研究センターなどがまとめた調査(父親215人を対象)によると、妻が出産してから3か月の間にうつの傾向を示した夫は16・7%に上ります。この数字から、仕事と家庭の両立に悩み、孤立する男性の姿が浮かび上がってきます。

また同調査によると、夫がうつになると、産後2か月の時点で、夫が子どもに対して「つねる」「お尻をたたく」「入浴や下着の交換を怠る」「大声で叱る」など虐待傾向のある行動をとるリスクが4・6倍も高くなることが分かっています。

児童虐待件数は、平成2年度の集計開始以来右肩上がりに上昇を続けており、平成28年度は12万件を超えています。少子化が社会問題になっている日本で、子どもの虐待件数が恐ろしい勢いで増えているのは、大きな矛盾です。

●諸刃の剣としての子ども

虐待件数の増加の背景には、親個人の倫理や道徳の問題だけではなく、シングルマザー家庭の貧困、女性の労働環境の悪さ、保育園数の少なさなど、諸々の社会問題が絡み合っています。

「孤独と避妊」の章でも書いた通り、恵まれない成育環境で育った人が、「子どもを持てば孤独ではなくなる」「家族が作れるはず」と考えて十代で結婚・出産するも、自分が親にされたことを子どもに対して繰り返してしまうケースは多々あります。

風テラスの相談現場で出会うシングルマザーの女性の中には、子どものために、キャバクラではなく風俗の仕事を選んだという人もいます。キャバクラは夜間の仕事であり、接客の際にどうしてもお酒を飲まなければならない。そうなると二日酔いで翌朝動けなくなってしまう=保育園の送迎や行事への出席ができなくなってしまうため、お酒を飲まなくてもいい風俗で働く、という選択肢を選ぶわけです。

しかし、風俗は履歴書に書けない仕事であり、収入証明が出せない場合もあります。家族や保育園、役所や担当のケースワーカーにバレるリスクを怖れながら、暮らしていかないといけない。結果として、さらに社会的に孤立してしまうということも起こりえます。

つまり、子どもを持つことは人を孤独から救い出す要因にもなれば、さらなる孤独へと突き落とす要因にもなりうる。結婚も子どもも、孤独を癒すプラスの側面と、孤独を増幅するマイナスの側面があります。あなたの視点からは、冷え切った関係にあるご両親の姿を通して、両者のマイナスの側面ばかりが見えているのでしょう。

●「性的孤独の連鎖」はなぜ起こるのか

さて、あなたのご両親は、日常の会話自体がほとんど無い家庭内別居の状態ということなので、ほぼ間違いなくセックスレス状態にあると思います。

私たちの国は世界に冠たる「セックスレス大国」であり、日本人の夫婦の半数近くがセックスレスの状態にあると言われています。

2016年に行われた一般社団法人日本家族計画協会の「男女の生活と意識に関する調査」では、婚姻関係にある男女のセックスレスは47・2%。前回調査より2・6ポイント増え、過去最高を記録しました。セックスに対して積極的になれない理由を尋ねたところ、男性では「仕事で疲れている」(35・2%)、「家族(肉親)のように思えるから」(12・8%)という回答が多数を占めました。一方、女性では「面倒くさい」(22・3%)、「出産後何となく」(20・1%)という回答が多くなりました。

セックスレスの大きな理由の一つに、長時間労働があると言われています。前述の通り、長時間労働は父親の家事・育児への参加の大きな妨げになり、産後うつの引き金にもなるので、結婚や育児にとって一番の大敵と言えるでしょう。

パートナーと性的なコミュニケーションができないことは、言うまでもなく性的孤独につながります。建前上、結婚した男性は他の女性とセックスしてはいけないことになっているので、結婚生活の外で相手を探すこともできない。

親自身が性的孤独に陥っている状況下では、子どもとも性に関する話はなかなかできないはずです。自信を持って性教育を行うこともできなくなる。

結果として、性的に孤独な夫婦から、同じように性的に孤独な子どもが育つ、という性的孤独の連鎖が生じることになります。その意味で、セックスレスは次世代に連鎖する=夫婦だけの問題ではなく、子どもへの影響もあると言えるかもしれません。

●「人は年老いたら枯れる」わけではない

セックスレスが社会問題になっている反面、あなたの親世代の中高年の大半には、確実に性的欲求が存在しています。

関東圏に在住している40歳〜79歳までの男女(有配偶者863人、単身者299人)を対象にして行われた調査をまとめた『セックスレス時代の中高年「性」白書』(日本性科学会セクシュアリティ研究会編:2016年・株式会社harunosora)によると、「この1年間に性交をしたいと思ったことはどれくらいあるか」という質問に対する結果は、「たまにあった」まで含めると、配偶者のいる男性では、40代91%、50代89%、60 代78%、70代81%に上ります。同じく配偶者のいる女性では、40代72%、50代53%、60代42%、70 代33%となっています。

「人は年老いたら枯れる」「結婚したら、子どもを産んだら性に関心がなくなる」というのは、あくまで一面的な見方にすぎません。男性も女性も、結婚しても子どもを産んでも、中年や高齢者と呼ばれる年代になっても、セックスへの関心や願望を多かれ少なかれ持続させていることが分かります。

性的欲求は、いくつになっても存在する。それ自体は全く自然なことです。それではなぜ、目の前のパートナーと性的な関係を継続すること、それによって家庭内での性的孤独を回避することができないのでしょうか?

(つづく)

「誰と交わっても空しい」あなたに贈る、生き抜くためのサバイバルガイド!

この連載について

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孤独と性をめぐる11のレッスン

坂爪真吾

高校の三年間、友だちは一人もできなかったし、恋人も作れなかった。恋愛もセックスも何一つできなかった。一発逆転を賭けて東大を目指すも、センター試験は全教科白紙で提出。すべてから逃げ出した坂爪少年は「卒業式が終わったら、自殺しよう」と決意...もっと読む

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clach (坂爪真吾|孤独と性をめぐる11のレッスン) https://t.co/eQQ5Ws4AY7 セックスレスが当たり前の日本。 育児に苦悩する親たち。 結婚にも、子供をもうけることにも、希望が持… https://t.co/5T1q5fttAb 3日前 replyretweetfavorite

cacucac 結婚についてさらっと分かりやすくまとめられているなあ。選択肢とにかく少なすぎる。 5日前 replyretweetfavorite

mori_kananan |坂爪真吾|孤独と性をめぐる11のレッスン 興味深い話題。 https://t.co/Ts7IyBKrsD 6日前 replyretweetfavorite

mucci_texi 「性的孤独」って造語言いたいだけでしょ 6日前 replyretweetfavorite