料理のひき算とたし算
今日は、乳製品はじめ、スープの「コク」を高める食材の話をします。前回までの話でずっとお伝えしてきたのは、おいしいスープを作るときに、食材そのもののうま味を十分に生かすための方法でした。素材の味がちゃんとスープに染み出していれば、濃いだしも、過剰な調味料もいりません。こうして、材料の数や料理の手間をどんどん省いていくという「ひき算」の考え方でスープを作ってきたのですが、この回だけは、新たな食材や調味料などを加えていく「たし算」の話をしようと思います。
空腹のときなど、食べ応えのある食事を体が欲しているときには、リッチで、本能が喜ぶような濃厚な味わいを求めることが多いですよね。この連載でもたびたび使ってきた表現ですが、いわゆる「コクのある味」というものです。「コク」は塩味、甘味、うま味などの基本味とはまた少し違う感覚で、骨の髄が出たようなとろりとしたラーメンのスープ、クリームやバターたっぷりのソース、どっしりしたチーズケーキなど、濃厚な食品によく使われる表現です。味だけでなく、とろみなどの食感も含んだ、複合的な要素によってもたらされます。
素材を塩で煮ただけのシンプルな味ではちょっと物足りないな……と感じるときもあるでしょう。また、料理に使う食材だって、常に新鮮でおいしいものばかりとは限りません。 家の冷蔵庫の残り食材でスープを作らなくてはならないようなときに、素材の味を生かしきっておいしく作る、というのも無理があります。そんなとき、秘密兵器のように「ちょい足し」して、ぐっとコクをアップさせる食材をいくつかご紹介してみます。
“コク出し食材”を常備しておこう
日持ちして常備しやすい「たまご」は、もっとも簡単なプラス食材でしょう。卵を溶き入れてふわふわに仕上げる、かきたまスープがたまごスープの代表です。和食や中華料理ではおなじみのスープですね。第5回の青菜スープのレシピでも卵を使っていますが、こちらはスープに卵をポンと割り入れたポーチドエッグ=落とし卵。スープの場合は鍋に直接割り入れてしまえばよく、手軽にボリュームとコクを上げるにはうってつけの方法です。
今回、レシピで使う乳製品は、プラス食材の最たるものです。牛乳、バター、生クリーム、チーズなど、あとからほんの少しスープに加えるだけで劇的にうま味とコクが出て、満足度の高いスープになります。牛乳を加えたスープは、いわゆるミルクスープ、それにとろみがつけば、クリームスープになります。乳製品は鶏肉、鮭、じゃがいも、かぶ、ほうれんそう、きのこ、コーンなどやさしい味や口当たりの食材との相性がぴったりです。牛乳は高温で熱するとたんぱく質が凝固してしまうので野菜を煮込む段階では入れず、なるべく最後のほうで加えることで分離を防ぎましょう。温まるぐらいでも大丈夫です。
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