平成最後の夏に読みたいエモい小説。文学史から考える「エモい」とは

ウィキペディア曰く、エモいとは「感情が揺さぶられたときや、気持ちをストレートに表現できないとき、哀愁を帯びた様」。その感覚を文学として表現したのは「ロマン主義」の作家たちだった。森鴎外、泉鏡花、国木田独歩、与謝野晶子、樋口一葉。平成最後の夏に読むべき、エモすぎ「日本のロマン主義文学」をどうぞ。
「京大院生が選んだ人生を狂わす名著50」がリニューアルして、cakesオリジナル定期連載。

「エモい」とは、文学史でいうところの「ロマン主義」的感覚

 平成最後の夏ですね。
 ……ってこの表現もはや手垢にまみれすぎて、使うのちょっと恥ずかしい。しかしわたしは使っていきたい所存です。だって使えるの今しかないし。期間限定品に弱い。
 そんなこんなで平成最後の夏。といえば、「エモいな~」という言葉が絶賛流行中の夏です。
 エモい、って言葉をご存知でしょうか? ここ1年で劇的に流行った言葉。「エモーショナルな感じがする」という意味らしいです。っていうか優秀なウィキペディアさんがすでに「エモい」のページをつくってくださっているのでそちらを見ましょう。

エモいは、英語の「emotional」を由来とした、「感情が動かされた状態」、「感情が高まって強く訴えかける心の動き」などを意味する日本語の形容詞。感情が揺さぶられたときや、気持ちをストレートに表現できないとき、「哀愁を帯びた様」などに用いられる。
(Wikipedia「エモい」より引用 / 2018.8.6現在)

「エモい、って結局どういう意味で使うんだ」って話を友達としたとき、「要は文学史でいうところの『ロマン主義』的感覚やね~」という結論に至りました。
 エモい=ロマン主義的感覚。
 というわけで、この記事の結論はこちらです。

 最高にエモい平成最後の夏こそ、ロマン主義文学を読むべき夏なのでは!?!?

 ロマン主義。それは19世紀くらいのヨーロッパで流行した「自分の感情を大切に! 理性よりも想像力を大切に! 知識よりも自然を大切に!」という芸術思想でございます(怒られそうなくらいざっくりした説明ですみません……詳しく知りたい方はその手の解説書を読みましょう)。この思想を明治時代の文豪が知ったとき、「おれらもやる!」と真似した時期があったんですね。
 今日はそんな「日本のロマン主義文学」をご紹介します。みんなで心をじーんとさせましょう。
 猛暑で外に出る気も起きない、そんな時こそ本を読みましょう! 
 というわけであなたと一緒に読みたい、意外と読んだことがない! 平成最後の夏に読むべき、エモすぎ「日本のロマン主義文学」行ってみましょう~。


1.ロマンに走る夏を過ごしたいあなたへ

『舞姫』森鴎外

 日本のロマン主義文学はこっから始まったんだ! と言われる『舞姫』。中高時代に国語の授業で読んだことのある方も多いのでは。意外とね、大人になってから読むと印象が違うのだ。昔は「豊太郎クズすぎだろ」としか思わなかったけれど、今読むと、「まぁ、そういうことも、あるよね……」くらいに許容できるようになってしまった。これは進化なのか退化なのか。目の前の快楽ってかロマンに走るときもあるよな。人間だもの。
 みなさんもぜひ読んで許容度をご確認くださいませ。ちなみに森鴎外はロセッティという詩人の詩想に「ネオロマンティック」という名前をつけたそうな。アイドルグループの名前みたいだと思いませんか。ネオロマンティック。


2.想像力ゆたかな夏を過ごしたいあなたへ

『春昼』泉鏡花

 だいすき! だいすき! とわたしがはしゃいでいたら、友達に「趣味が悪すぎる」とドン引きされた小説。え、めっちゃ好きなんだけど……。しかし引かれるのもわからなくはない、美しすぎる文体の幻想小説かと思いきや、ラストがジェットコースターのような加速度。その落差を楽しんでほしい名作(あ、岩波文庫は一緒に収録してるのだけど、続編の『春昼後刻』も一緒に読んでくださいね!)。
 名台詞「目が覚めるから、夢だけれど、いつまでも覚めなけりゃ、夢じゃあるまい」の真意とは? ある意味、泉鏡花版『君の名は。』とも言える本作。真夏の夜の夢にどうぞ。


3.自然に触れる夏を過ごしたいあなたへ

『武蔵野』国木田独歩

 イギリスのロマン主義の影響をもろに受けた、「日本のワーズワース」こと国木田独歩。彼の視線は余計なものがなくて、読むと心がすんっとあるべきところに戻される気がする随筆。国木田独歩が武蔵野の風景を描いた文章を読むだけで、わたしは武蔵野なんて行ったことがないのに、足は武蔵野の雑木林をくぐって歩いているような心地を覚える。すごい。
自然に触れたいけど夏休みを取る暇もないあなたこそ、ぜひ『武蔵野』で、ひとときの夏休みを。


4.刺激的な夏を過ごしたいあなたへ

『みだれ髪』与謝野晶子

 俵万智さんの『チョコレート語訳 みだれ髪』が最近、新装版(中村佑介さんの素敵なイラスト付き!)で出たので、書店でも見るようになって嬉しい。与謝野晶子がロマン主義であることはもうなんか歌を読まなくてもわかる。「なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな」なんて歌を読まれては、そりゃーひと夏のアバンチュールも起こらざるを得ないっちゅーに。
 ちょっと最近刺激が足りないわ、というときにおすすめ。ぱらぱらめくるだけで血圧がちょっと上がる気がしますよ。


5.切ない夏を過ごしたいあなたへ

『たけくらべ』樋口一葉

 吉原で育った、幼馴染の恋。もう戻らないあの頃を、イノセンスを失ってしまった少女を、近代日本文学でいちばんきちんと描いたのって、やっぱり『たけくらべ』なんじゃないかと思う。
 美しさとかきらきらした日々とか、単純に言えば「若さ」みたいなものとか、いつかは失われてしまう。わたしたちはその喪失の予感を汲み取って、あらかじめ切なくなるのだ。喪失があってもなくても、現実のわたしたちは生き延びていかなくちゃいけないから、こうやって小説に残しておくのだろう。


 今日ご紹介したものはすべて青空文庫で読めます~! kindle無料で名作が読める時代ですよ、平成最高ですね。
 ちなみに浪漫、って漢字をあてたのは夏目漱石なんですよ~。
 なのに夏目漱石はロマン主義に入らないという。なぜなんだ。森鴎外なんかもロマン主義に入るか微妙で、そもそも文学史のいわゆる「~主義」って結局後づけみたいなところがあるんですよね。なので、「この作品はこの主義に入れていいのか!?」っていつも論争になったりするのですが。それでもたまには、まとまって同じ流行を追いかけた作品を読むこともおもしろいものです。

 それでは、あなたの平成最後の夏が、素敵な季節として思い出に残りますように! ついでに少しでも小説を楽しんでもらえますように!


この連載について

初回を読む
わたしの咀嚼した本、味見して。

三宅香帆

人気連載【京大院生が選んだ「人生を狂わす」名著50】がリニューアルして再スタート! 書籍『人生を狂わす名著50』の著者であり、現役の京大院生で文学を研究し続ける24歳の三宅香帆が、食べて、咀嚼して、吐いた本の中身を紹介するブックガイドです。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

ncnc_appole #スマートニュース 個人的には『風立ちぬ』を推したい 4日前 replyretweetfavorite

keishiro_314 若者と文学の間、世の中と研究者との間に立てる稀有な存在が、三宅さんだと思うのです。 5日前 replyretweetfavorite

ktre30 香帆先生の文章が好き過ぎる。 「人生を狂わす〜」を読んだので時間があるときにブログに書きます。 5日前 replyretweetfavorite

ino22u エモい=ロマン主義的感覚。 なるほど、、、面白い。。。 この前も「エモい、エモい」ばっかり言っていたら「出た、またエモい」って注意されたので、今度からは「それはロマン主義的感覚だね」って言おうと思います。 キモいか。 https://t.co/2chO8gBXB8 5日前 replyretweetfavorite