柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和「レトロゲームファクトリー」第22回

レトロゲームを最新機用に移植する会社「レトロゲームファクトリー」。社長の灰江田直樹とプログラマーの白野高義(コーギー)は、ファミコン時代の名作「UGOコレクション」全十本の移植という大きな依頼を受ける。ただ、実現には大きな障害があった。それは最後のゲーム「Aホークツイン」の権利だけを買い取った、開発者の赤瀬裕吾が行方不明であること。二人は赤瀬探しに奔走する。
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「海外で暮らしているのに住民票を残したままにする。外国の国籍を得ているのに、国籍喪失届を出さない。そうした人間もいる。赤瀬も似たことをしている可能性はあるだろうな」
灰江田は姿勢を正して、鬼瓦の声に耳を傾ける。
「赤瀬を酒の席で見たとき、白鳳の初代と熱心にコンピューターのことを話していた。購入する機械の選定は、赤瀬がやっていたらしい。自分で輸入していたのか、業者を通していたのかは知らない。ただ、かなり詳しいようだった。そうした会話を聞いていたからこその発想なんだがな」
 鬼瓦は前置きのように語る。そういえば、赤瀬は先代の社長と新しいコンピューターをよく見に行っていたそうだ。二人で海外に買い付けに行くこともあったと、元グラフィッカーの田(た)沼(ぬま)は言っていた。家にも多数の機械があったと聞いている。
「赤瀬は、当時それなりに名の知れたゲーム開発者だった。同じ業界で仕事をすれば、誰かがそのことに気づくはずだ。異業種に行ったとしても、あれだけ力量のある奴なら、必ず頭角を現す。日本は狭い国だ。完全に痕跡を消すのは難しいだろう。
 物を作るってのは能力じゃなくて業だ。作るなと言われても勝手に作ってしまう。そういうものがない奴はクリエイターになれない。だから、どの分野に行っても自然と目立つんだよ。そして誰かしら、知っている人と顔を合わせてしまう。なのに、さっぱり名前を聞かんとなると、生物学的に死んだか、クリエイターとして死んだか、あるいはまったく別の環境に行ったか、どれかだろう。
 野垂れ死んだのなら、どう足掻いても見つけることは不可能だ。クリエイターとして死んだ場合も困難だろう。しかし、新天地に行った場合は別だ。海外に移住したなら、そこでなにかを作り続けている可能性が高い。それはゲームかもしれないし、それ以外のものかもしれない。
 赤瀬はプログラマーでゲームを作っていた。そして、コンピューターについて造詣が深かった。そんな奴が行く国は限られている。パーソナルコンピューターのメッカである、あの国以外には考えにくいだろうな」
「アメリカ合衆国ですか」
「ああ。それも、ごく限られた地域に限定される。少なくとも田舎じゃねえ。西海岸とかニューヨークとか、そこら辺じゃねえのか」
 あり得る話だ。灰江田は、その方面で調べてみようと考える。しかし、どうやって探せばいいんだ。
「おやっさん。アメリカに行った日本人は、どう見つければいいんですか」
「おいおい、そこまで面倒を見切れんぞ。そこから先は頭を使え」
 鬼瓦は、呆れたように言う。
「まあ、駄目なら、諦めた方がよいかもしれん。仕事は損切りも大切だ。金にならんと判断したら、傷が浅いうちに切り捨てる。なにせ三十年近く前の人間だからな」
 鬼瓦は栗きんとんを口に運び、ゲームボーイをふたたび始める。灰江田は皿と茶碗を片づけたあと、礼を述べて鬼瓦の屋敷をあとにした。



高台から下りた灰江田は、ドットイートを目指した。店の前に自転車が何台か停まっている。扉を開けるとともに電子音の洪水があふれ出す。店の真ん中ではスタントマンの鹿本(しかもと)が、声とアクションでスパルタンXの物真似をして喝采を浴びていた。灰江田はカウンターに目を移す。常連客の端には、相変わらず小学生のサトシがいてゲームをしていた。
「おい、学校は行かなくていいのかよ」
「うん。そのうちね」
 面倒くさそうに返して、皿のコイン型クッキーに手を伸ばす。まあ、完全な引きこもりよりはましか。灰江田は、仕方がないと思いながらテーブル席に腰を下ろす。
「なんにする」
 ナナが真面目な顔で注文を取りに来た。どうしたんだ。いつもはカウンターから大声で聞いて終わりのことが多いのに。らしくないなと思いながら、ブレンドを注文する。
「これ、言っておいた方がよいと思うから言うんだけど」
 腰を屈めて他人に聞こえないように、ナナは語りかけてきた。
「昨日、コーギーくんに電話があったの」
「珍しいな」
「グリムギルドの橘さんという方から」
 思わず目をむいて、ナナの顔を見る。
「橘が、コーギーに」
 ナナはうなずく。
「どんな話だった」

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新潮社
2018-05-18

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柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和 /新潮社yom yom編集部

失踪した伝説的ゲームクリエイターの謎を追え――。 『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』で小説家デビューを果たした プログラマー・ゲーム開発者が贈る、本格ゲーム業界小説! 電子書籍文芸誌「yom yom」に...もっと読む

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ruten cakesで小説『レトロゲームファクトリー』連載22話目公開されています。レトロゲーム移植会社のお話です。最新話→ https://t.co/Leujr96dVT 連載まとめ→ https://t.co/PKcROjtBSQ… https://t.co/4CTQ6KEv5L 4ヶ月前 replyretweetfavorite