ここにふたりの女がいる。
美人のA美。 ブスのB美。
ともに、45歳である。
ふたりの30年間を早足で振り返ってみる。
【美人のA美】
10代……ハッと目をひくかわいさ。周囲からは「かわいい」「美人」と言われてちやほやされる。いつも彼氏がいた。いつも自分に片想いしている男がいた。髪を切ればほめられた。試着すればほめられた。そこそこの短大に入った。
20代……楽しくて素敵なOLライフ。海外旅行にもたくさん行った。会社の上司はいつもごちそうしてくれた。大企業に勤める彼氏をゲット。結婚&出産。退職して専業主婦に。資格や専門性などを身につけようなんて思いもしなかった。
30代……若いころの美貌でゲットした夫。経年劣化する妻に興味が薄れてきたのか、昔に比べてちやほやしてくれない。子どもにお金がかかるので、毎月行っていた美容院が3カ月に一度に。デパートで服を買うこともめったになくなった。
40代……いよいよ夫との関係がうまくいかなくなってきた。できれば離婚したい。しかし先立つものがない。専業主婦として15年ほど過ごしてきたのでパソコンが扱えず、就職活動がうまくいかないのだ。面接に行っても「おきれいですね」とは言われなくなった。経済力がないので、不仲の夫と居続けるしかない。
【ブスのB美】
10代……だれもちやほやしてくれない。客観的に評価してもらえる勉強にいそしむ。
20代……資格を取得。合コンにも一生懸命参加し、どんな人が自分を好いてくれるのか、そして自分に合うのかを緻密に分析しデータを集める。
30代……結婚。しかし、ブスであるためいつ離婚されてもいいように、仕事は続ける。
40代……経済力があるので、だれかにしがみつく生き方を選択しなくていい。ブスであるがゆえに傾聴の技術を磨き続けた。そのおかげで、PTAでのめんどうな人間関係も、難なくこなせる。顔は相変わらずブスのままではある。
はじめまして、満たされたブスです
はじめまして、みなさん。ブスのB美こと田村麻美です。
東京足立区は北千住で、税理士として活躍している34歳の女です。
やさしい夫とかわいい娘もいて、いま早稲田大学の大学院にも通っていて、もうすぐMBAもとれちゃうかもしれない、そんな満たされたブスの田村です。
このたび、本を出したのだが、表紙の写真はプロのカメラマンさんにすごくよく撮ってもらったせいか、「それほどブスではないんじゃないか」という声も聞こえる。そんな人は昔の写真を見てほしい。
どうだろうか。34年間、自他ともにそれなりに認めてもらえるブスとして、生きてきた。
現在、幸せで満たされてはいるが、相変わらず美人とはいえない容姿の私である。
B美の例を見てよくわかるように、10代にブスだった女は、20代もブスであり、30代もブスである。40代も50代も変わらずブスであろう。
一方で、10代に美人だった女は、20代で20代なりの美人になり、30代で30代なりの美人になる。40代では昔美人だったんだろうと言われる。50代では……。
ブスに比べて、美人は経年劣化がもろに反映される。
ほうれい線、しわ、たるみ。
顔だけではなく体形もそうである。
年齢とともに変化するのは致し方ないことであるが、心配なのは、経年劣化をまったく予想せず、「美貌」のみ、ただひとつの武器で生きてきた美人の行く末である。
ここまで書いたところで、編集者から質問が届いた。
【質問】 どんな顔がブスなんですか? どういう顔が美人なんですか? 顔には個々の好みがあって、一概に「ブス、美人」って言うのは難しいと思うのですが。
なにをもってブスと定義するか
そういえば、編集者が「この人超美人なんですよー」と見せてくる写真は、いつも「ふつうかな」と思うレベルだ。「採点、甘いですよね……」と思わず言ってしまったこともある。
確かに個々の好みによって「美醜の基準」に差が出る。
私は大学院で、「日本における外見要素が所得に与える影響の分析」を研究テーマとしている。
研究上難しいのは、やはり、何をもって、「美人、ブス」と定義するかということだった。論文なので、数値化の必要があり、試行錯誤の結果、「顔の黄金比(整った顔のパーツバランス)」を使うことにした。会う人会う人の顔のパーツ比率を測って数値化するという、非常に失礼な研究である。
美貌格差と所得格差は比例すると論じた『美貌格差』(ダニエル・S・ハマーメッシュ)という本のなかでも「美しさの測り方」の難しさにおいて言及している。この本のなかでいくつかの測り方と定義の仕方を紹介しているが、研究のための方法なのでめんどうくさいし、一般の人がやるのはちょっと無理だと思う。
そこで、本書では、ブスの定義を、ビジネス市場・恋愛市場において
「見た目を武器にできない人」
にしておこう。美人の定義は、「見た目を武器にできる人」。
武器にできるかどうか客観的に判断できない、という人は、他人から「かわいいね、美人だね」と顔をほめられたことが、20回以上あるかないかで判断してもらってもいい。
これから、私の人生を例にとりながら、いかにして使える武器を身につけ、幸せに生きていくかを書いていく。がんばるブスへの愛が深いため、生まれながらのブスに向けて書かれているが、劣化に焦る美人の参考にもなるはずである。