著名人、動物を使ってたとえを作る 「伊能忠敬のようにシャウトする」

エッセイが大学入試に使われるなど、確かな文章力に定評がある作家せきしろ。また、数々の芸人にコント脚本を提供するなど、圧倒的なユーモアを生み出す表現力の秘密は「たとえ」にあった――。ニヤリと笑えて切なくなって、意外と学べる、かもしれない。数々のたとえを見ているだけで、発想が自由になる 『たとえる技術』の一部を公開します。

著名人を使う

続いて著名人を使ってたとえる方法である。

この方法は、特定の人物のイメージをそのまま利用するため、手軽で、かつ相手に伝わりやすい。

例えば部下の勤勉さをたとえたいとする。勤勉といえば二宮金次郎しかいない。多くの人が共有しているこのイメージをたとえに利用する。

二宮金次郎のように勤勉だ

二宮金次郎が薪を背負いながら本を読む姿が目に浮かび、勤勉さを際立たせてくれる。

また、怒りっぽい上司をたとえる場合はあの人の登場だ。

織田信長のように怒る

織田信長といえば絶えず怒っているイメージがある。このようなたとえにはもってこいの人物だ。

あっという間にたとえが2つできたわけだが、人物を入れ替えてみるとどうだろうか。

二宮金次郎のように怒る

織田信長のように勤勉だ

二宮金次郎も怒ることはあるだろう。授業に集中したいのにクラスメイトが騒がしい時や、勉強しているのに家族におつかいを頼まれた時などは怒るだろうし、解けるはずの問題が解けなかったり、ケアレスミスをしたりした自分に対して怒ることもあるはずだ。

逆に織田信長も全国統一しそうになったくらいだからああ見えて勤勉な面もあったのかもしれない。時には計算して怒ったこともあっただろう。怒り方を研究していた可能性もある。

とはいえやはり我々のイメージからはかけ離れているため良いたとえとは言えず、伝わりづらい。

別の人物でも考えてみよう。

ガンジーのように耐える

聖徳太子のように棒を持っている

ギャル曽根のように大食い

尾崎豊のように窓ガラスを割る

どれもイメージに即していて、わかりやすいたとえだ。これをランダムに入れ替える。

ガンジーのように窓ガラスを割る

聖徳太子のように大食い

ギャル曽根のように棒を持っている

尾崎豊のように耐える

ガンジーは暴れているし、聖徳太子は食べることに夢中で人の話を聞かなそうであり、ギャル曽根は食べ物が足りなくて自ら狩りに行きそうで、尾崎豊は反抗する気がまったくない。

このように著名人でたとえる方法は、イメージを利用することはできるが、逆にイメージが強固すぎて融通がきかなくなるデメリットがある。

もちろん例外もあり、汎用性が高い人物もいる。伊能忠敬はそのひとりだ。

彼の「歩いて地図を作った」というエピソードが持つイメージは強烈なもので、「江戸時代に!」「歩いて!」「今のような機材もないのに!」「テレビの企画でもないのに!」などの驚きを与えてくれる分、伊能忠敬の姿を多分に想像させてくれる。それが汎用性を高めてくれるのである。

伊能忠敬のように歩き回る

伊能忠敬のように行動力がある

伊能忠敬のように精密だ

伊能忠敬のように黙々と仕事をする

伊能忠敬のように各地の美味いものを知っている

伊能忠敬のように根気がある

伊能忠敬のように国内旅行が趣味

伊能忠敬のようにフットワークが軽い

このようにどれもイメージからかけ離れることもなく、多くのたとえを生み出す。

ただ、いくら汎用性が高いと言っても伊能忠敬の逸話に基づいていないものはいただけない。

伊能忠敬のようにジャンプする

伊能忠敬のようにギターを弾く

伊能忠敬のように成人式ではしゃぐ

伊能忠敬のようにシャウトする

伊能忠敬のようにブレイクダンスを踊る

伊能忠敬のようにハロウィンを楽しむ

伊能忠敬のようにドリフトする

伊能忠敬のようにインスタグラムのフォロワー数が多い

これでは伊能忠敬らしさがなく、特色がすべて消えてしまっている。

しかし、浮かび上がる映像はどれも心を躍らせてくれる。地図を作りながら県境をジャンプして越える伊能忠敬や、旅費を稼ぐためにストリートでギターを弾く伊能忠敬、昔はやんちゃだった伊能忠敬、またしても旅費を稼ぐためにストリートで歌う伊能忠敬、頭でくるくる回る伊能忠敬、ゾンビの仮装をして測量する伊能忠敬、峠を攻める伊能忠敬、地図を作りながら訪れた土地の写真をこまめにアップしている伊能忠敬。自分の中に留めておく分には構わないたとえだ。また伊能忠敬を知らない人を惑わす時にも使える

「キミのシャウトは伊能忠敬のようだね」

「そうですか! よくわからないけどうれしいです!」

そういう意味でも汎用性は高い。


動物を使う

動物は幼い頃から何かと親しんでいるものであるから、たとえられた時に聞き手もイメージしやすいのでお勧めである。

逆にそのイメージのしやすさがネックとなり使いづらい動物もいる。特にビジネスシーンで扱いづらいのはキツネである。

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たとえる技術

せきしろ
文響社
2016-10-12

この連載について

初回を読む
たとえる技術』

せきしろ

エッセイが大学入試に使われるなど、確かな文章力に定評がある作家せきしろ。また、数々の芸人にコント脚本を提供するなど、圧倒的なユーモアを生み出す表現力の秘密は「たとえ」にあった――。ニヤリと笑えて切なくなって、意外と学べる、かもしれない...もっと読む

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sekishiro 今週も読めます! 単語の選択が重要、という話でもあります。 よろしくお願いします! 9ヶ月前 replyretweetfavorite

tanikko3 せきしろさんの『たとえる技術』、こちらで一部が読めます。今回は、 9ヶ月前 replyretweetfavorite