似た色を探す
次は色から作る方法である。ここでも再び雲を使って考えてみたい。
今度は雲の色に注目する。白い雲。今までの人生で見てきた白いものを思い出し、「○○のように白い雲」というたとえを作る。
コンビニの店員が補充するコピー用紙のように白い雲
真夏に見た洗剤のCMのように白い雲
晩秋の曇ったメガネのように白い雲
旅館の女将さんの足袋のように白い雲
駆けつけた病室のように白い雲
ひび割れた横断歩道のように白い雲
曇り空に透けて見える太陽の色のように白い雲
カレーうどんを食べる前のシャツのように白い雲
それぞれのたとえが新しい白を生み出しているのがわかるだろう。人工的な白、過剰なまでに鮮やかな白、半透明の白、凛とした白、無機質な白、古ぼけた白、ぼやけた白、今から他の色に変わる可能性のある白。たとえの数だけ白の種類がある。
もちろん雲は白だけではない。曇り空、今にも雨が降り出しそうな空。そんな時の雲は灰色だ。その場合は灰色を探す。
積み上げられた古新聞のように灰色の雲
おじいちゃんが着ていた紳士用ポロシャツのように灰色の雲
起きてから必死に思い出そうとする夢のように灰色の雲
並んでいるガスボンベのように灰色の雲
コンクリート打ちっぱなしのデザイナーズマンションのように灰色の雲
テーブルの上に落ちたタバコの灰のように灰色の雲
夏に穿いていたズボンのポケットから出てきた砂のように灰色の雲
昔美人だったと思われるおばあさんの髪の毛のように灰色の雲
今度はたとえの数だけ灰色が誕生した。
やがて灰色の雲が去り、晴れ渡る。空には青色が広がっている。
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