似た形を探す
そもそも人はどんな時に「たとえたい」と思うのか。大きく分けると次の3つが考えられる。
伝えたい時
アピールしたい時
たとえなければいけない時
まずは「伝えたい時」。前章で述べたように、たとえを入れることで感情や情景を相手がイメージしやすくなり、伝わりやすくなる。
あいつは気遣いのできる男だ
あいつはコンビニのトイレを借りるためにガムを買うような気遣いのできる男だ
後者のほうが「そういうことまでするんだ!」と気遣いの部分が鮮明になり、伝わってきやすい。
次に「アピールしたい時」。これも先述したようにオリジナリティを出すためにたとえが有効であるから、そのオリジナリティを「こんな表現ができる」「自分ならこう言う」「どう、かっこいいでしょう?」などのアピールとして使うことができる。
ただ気を付けたいのはアピールしすぎてしまうこと。たとえは言葉の装飾品みたいなもので、あまりにも装飾されてしまうと、クリスマスイルミネーションが過剰な民家のように、辟易してしまう。
最後に「たとえなければいけない時」。国語の授業で「たとえてみよう」みたいな時間があったならたとえなければいけないし、作文を書いて「比喩を入れてごらん」と先生にアドバイスされた時にもたとえを考える。また人質をとられて「たとえを言わないと人質の命はないぞ」と言われたらたとえるしかない。どちらかというと、能動的ではなく受動的にたとえる場合である。
たとえたくなったなら、たとえを作ることになる。その場合、真っ先に考えられるのは似たものを探すという方法である。
あなたが友人と待ち合わせしていたとする。待ち合わせ場所へ行く途中、かわいい子とすれ違う。あなたは友人に会うや否やこう言うだろう。
「さっきすれ違った子、凄くかわいかった!」
しかし、かわいいは千差万別で、誰かにとってのかわいいは他の誰かにとってはかわいくなく、その逆もある。つまり「かわいい」だけだと、興奮しているあなたと友人とのイメージの共有は難しい。
そこでたとえる。
「アイドルのようにかわいかった」
「女優のようにかわいかった」
「朝ドラのヒロインのようにかわいかった」
「同級生の○○さんのようにかわいかった」
「個性的な顔をした猫のようにかわいかった」
これにより、ややぼけていたかわいさがクリアになり、「そんなにかわいいの!」と友人は返答することだろう。逆に鮮明になった分、自分の好みとは違うことがわかり「そうかなあ?」との返事もあり得る。特に最後のたとえのかわいさは人を選ぶ。
さて、このたとえはすれ違った子と同等のかわいさを持った人物(+猫)をたとえに利用している。いわば似ているものを、近似値を、提示しているというわけだ。
このような、Aをたとえたい時にAに似たBを探し、「BのようなA」とシンプルに並べるやり方はたとえ作りの基本中の基本といえよう。
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