第231回 サイコロロン(前編)

「その数、何だか秘密がありそう!」というユーリ。いったい何を見つけるだろう。「群とシンメトリー」シーズン第1章前編。

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

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僕の部屋

ここはの部屋。いまは土曜日。

いとこのユーリがいつものように遊びに来ている。

ユーリ「お兄ちゃん! 退屈だよー! なんか楽しいクイズない?」

「ユーリ、ひとの部屋に来て、いつもそれ言うよね」

ユーリ「いつも? いま《いつも》って言った? 《いつも》じゃないもん! そーゆーの《誤った一般化》なんだぞー」

「はいはい、突っかかるなよ。それだけ退屈してるんだね。クイズか……じゃ、こういうのはどうだろう」

ユーリ「わくわく」

クイズ

サイコロの置き方は全部で何通りあるか。

ユーリ「$6$通り」

「え?」

ユーリ「え?」

「……」

ユーリ「違うの? だって、サイコロは$6$面じゃん?」

「ああ、そうかそうか。ごめんごめん。 問題をもっとちゃんというよ。サイコロの置き方は……うっ、意外に難しいな」

ユーリ「問題出す前に《意外に難しい》とか言わないでよ」

「言いたいことはこうなんだ。サイコロを平らな机に置く」

ユーリ「ふんふん。転がらないように」

「それで、ええと、サイコロの横の四つの面が、それぞれ東西南北に向かうように置く」

ユーリ「ふんふん。それで呪文を唱えると、召喚獣が現れる」

「現れない。サイコロの面は$6$面ある。上・下・東・西・南・北にどんな面が向かうかは、サイコロの置き方で変わる。そこで……サイコロの置き方は全部で何通りあるか」

ユーリ「$24$通り」

「ユーリ、速いな! 正解!」

ユーリ「へへー。お兄ちゃんが説明している間、考えてたんだもん」

「で? どんなふうに考えたんだろう」

ユーリ「どんなふーにって? $6$面あって$4$通りだから、$6 \times 4 = 24$通りじゃないの?」

「いやいや、それは考え方の説明になってないよね」

ユーリ「$24$通りでいいんでしょ?」

「いいよ。答えはそれでいいんだけど、ユーリがどんなふうに考えたかに興味があるんだ」

ユーリ「頭の中で、サイコロ転がしたの。コロンって転がすと、$1,2,3,4,5,6$のどれかが出るよね?」

「出るねえ」

ユーリ「だから、最初$6$通りって答えた」

「うん、そうだね。その考えは正しいね。《サイコロの置き方は全部で何通りあるか》という問いに対して、ユーリは上に来る面の種類で答えたわけだ」

サイコロの上に来る面は$6$通り

ユーリ「くどく言えばね。そんで、お兄ちゃんの話で、サイコロを東西南北にきっちり向けるんでしょ。 そうすると、くるくる回すと$4$通りあるわけじゃん?」

「そうなるね。上面と下面はそのままにして、サイコロを回すと、いつも$4$通りある」

サイコロの上面と下面をそのままにして回すと$4$通り(図は上面が$1$で下面が$6$の例)

ユーリ「上に来る面が$6$通りあって、回すのが$4$通りあるから、$6 \times 4 = 24$通り」

「いいねえ! ユーリの説明はよくわかったよ」

ユーリ「えへん」

「ユーリの説明を聞いていると《確かにそれで正しい》と確信が持てるよ。それは、《もれなく、だぶりなく》数えているようすがよくわかるから。 そしてそういう話を聞くのは気持ちがいい」

ユーリ「へ? 《もれなく、だぶりなく》ってどーゆーこと?」

「意識してなかったんだ。単に答えを出せばいいんじゃなくて、どんなふうに考えたかを意識するのが大事なんだよ、ユーリ」

ユーリ「はいはい《先生トーク》炸裂だにゃ」

もれなく、だぶりなく

「このクイズのように何かの《場合の数》を求めるときには、《もれなく、だぶりなく》という考え方がとても大事なんだ」

ユーリ「《もれなく》って、もらさないように数えるってこと?」

「そうだよ。そして《だぶりなく》というのは、だぶらずに数えるということ。数えもれがあると少なくなってしまうし、だぶりがあると多くなってしまう。 だから《もれなく、だぶりなく》というのが大事なんだ」

ユーリ「お兄ちゃん、熱く語ってるけど、それって当たり前では? 数えるときに、少なく数えてたり、多く数えたりするなー! ちゃんと数えろー! ってことじゃん?」

「そうなんだけど、《ちゃんと》数えろだとはっきりしないよね。《がんばって》数えろとか、《まちがえないように》数えろというのはあいまいだ。 でも《もれなく、だぶりなく》数えろというのは、具体的な方針を示している」

ユーリ「ほほー。にゃるほど。それで? ユーリの$6\times4$のどこが《もれなく、だぶりなく》なの?」

「うん。ユーリはまず《上に来る面は何か》と考えた。上に来る面は$1,2,3,4,5,6$の$6$通りある」

ユーリ「あたりまえ」

「その$6$通りで《もれなく》数えているよね。サイコロの面で$7$が出たりしないし、$0$が出たりしない」

ユーリ「あたりまえの二乗」

「それから《だぶりなく》数えてもいる。サイコロの面で$1$と$3$が同時に上に来るということはないから、 $1$と$3$は別に数えてかまわないということ」

ユーリ「$1$と$3$が同時に上に来たら、もうそれサイコロじゃないし!」

「そうだね。だから《上に来る面は何か》と考えて、$6$通りあるというのは《もれなく、だぶりなく》数えている。 そんなふうに確信を持っていえるということになる」

ユーリ「お兄ちゃん、すごいね」

「なにが?」

ユーリ「よくそれだけ、当たり前のことをくどくいえるにゃあ……でも、嫌いじゃないぜ」

「キャラぶれてるぞ。それから、《上に来る面は何か》を考えた後、上と下の面は変わらないようにして、サイコロを回したよね」

ユーリ「ふんふん。たとえば$1$を上にしたままで、東西南北の$4$通りに回せる」

「そうだよね。それもまた《もれなく、だぶりなく》数えている」

ユーリ「えーと? 《もれなく》ってゆーのは、東・西・南・北のどこを向くかで全部考えたってことだよね」

「そうだね。$1$の面を上にしたら、$2$の面は必ず側面に来る。側面に来る$2$は東西南北の$4$通りのどれかですべてを尽くしている。$2$の面が南東や北北西を向く場合は考えなくていい」

ユーリ「それから、《だぶりなく》ってゆーのは?」

「ある面が東を向くと同時に、同じ面が西を向くということがない」

ユーリ「あー、さっきと同じ」

「だから横の面が何になるかについても《もれなく、だぶりなく》数えている。上の面が何になるかを考えて、そのそれぞれに対して横の面が何になるか、《もれなく、だぶりなく》数えたことになる。だから、《正しい》と確信を持っていえる」

ユーリ「めちゃめちゃくどいけど、わかった……ところでお兄ちゃん。ユーリからもクイズあるんだけど」

「お、どんなクイズ?」

ユーリ「いま思いついたんだけど、こんなの」

ユーリのクイズ

サイコロの置き方は$24$通りある。

$4$の階乗$4!$は$24$である。

この謎を解け。召喚獣を呼んでも構わない。

「召喚獣こだわるなあ」

ユーリ「そこはスルーしろー!」

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結城浩

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chibio6 頂点Aが1にくる場合はそれを含む面の数と一緒で3。頂点は8個あるけど頂点A'が1にくる場合はちょう… https://t.co/Ewb9z2AfDq 2ヶ月前 replyretweetfavorite

stgctkm 《求めるものは何か》 《与えられているものは何か》 《似た問題を知らないか》 https://t.co/d9DvwMYPxv 3ヶ月前 replyretweetfavorite

asangi_a4ac これはつまり、正六面体群が4次の対称群と同型であることを示せばいいのか? https://t.co/VwasbcfXL1 3ヶ月前 replyretweetfavorite

apu_yokai 「なぜ4!となるか」 A A'を結ぶ軸の向きが4とおり、軸周りの回転が3とおり、軸の前後入れ替えが2とおりで、4×3×2というのはどうかな https://t.co/k3FIbQhJnt 3ヶ月前 replyretweetfavorite