・男性ホルモン「テストステロン」を高めよう
一般的には、「ホルモン」といってもぼんやりとしたイメージしか浮かばないことだろう。血糖値を調整するインスリン、睡眠を誘導するメラトニン……これらもホルモンだが、ここで堀江氏から集中的に学ぶのは、男性ホルモン、すなわち「テストステロン」に関連する病気についてである。
テストステロンは、「やる気」と密接に関係している。したがってテストステロンが減ると「意欲減退」となるが、それだけではない。テストステロンが減ると「頻尿」、さらには「ED(勃起不全)」にもつながってしまうのだ。テストステロンの分泌量次第で、これほど多様な体調不良を招くとは一大事ではないか。テストステロンの減少を防ぐ方法はあるのだろうか。
「歳をとるほどテストステロンが減ると思われがちですが、そんなことはありません。単に統計的にそう出ているだけで、私たちの体が、老化するとテストステロンが減るとプログラムされているわけではないのです。テストステロンを自分で上げる方法もありますよ。症状が深刻なケースでは注射や投薬も選択肢になりますが、予防・改善するには、日々の習慣が大事です」と堀江氏は語る。
そう聞いて安心された方も多いのではないか。「テストステロンは、一つには、自分が必要とされる環境に置かれれば分泌されます。もう一つには筋肉をつけると分泌が促進されます。ですから具体的には、積極的に社会参加すること、目標を伴う運動習慣をもって肥満解消すること、自分の居場所をもつことですね。頻尿の予防・改善には『膀胱ストレッチ』も有効です」
ではこれから、それぞれの病気の発生メカニズムも学びつつ、意欲全開でいつまでも「元気」でいられる行動指針を、共に学んでいこう。
専門家が簡単解説!「意欲減退」の仕組み
・嫌なことの記憶に、テストステロンが「蓋」をしている
男性ホルモンのテストステロンが減ると、なぜ意欲減退につながってしまうのか。それは、テストステロンが減ると、暗い記憶が蘇りやすくなるから、だという。
「脳の扁桃体という領域は、いわば脳のハードディスクのようなもので、自分のトラウマ、つまり悲しいことや苦しかったことの記憶が貯蔵されています。それがあふれてこないように『蓋』をしているのが、実はテストステロンなのです」
「テストステロンが減るというのは、扁桃体の蓋がパカッと開いてしまうということ。だから、モワモワ〜ッと暗い記憶が蘇って、不安に陥ったり、落ち込みやすくなったりする。こうして意欲減退になるわけです。うつ病の原因も、これ一つとは言えないながらも、テストステロンが一つの重要ファクターであることは間違いありませんね」
私たちが日頃、健やかな精神状態で「やる気」をもって物事に取り組めるのは、テストステロンが、過去のトラウマを安易に思い出さないようにしているからなのだ。さらには、「肥満と意欲減退は切っても切れない問題です」と堀江氏は指摘する。
往々にして、太っている人はやる気がない人が多いなと思っていたが、肥満と意欲減退には、どういうメカニズムが働いているのだろうか。
「筋肉が多い人は、テストステロンが高い。逆にいえば、テストステロンが低いと脂肪が増えます。ただ、増えるといっても、脂肪細胞の『数』が増えるわけではありません。人の脂肪細胞の数は基本的には大差はなく、違うのは大きさです。その大きさを抑制しているのが、実はテストステロンなのです」
つまり、テストステロンが少ないと、脂肪細胞への抑制が外れてしまって、脂肪細胞が大きくなる。こうして脂肪が増え、肥満になるというわけである。
「太っていても意欲的な人はいますよね。それはまた別のメカニズムですから、太っている人みんなが意欲減退になるとは限りません。ただ、太っていて、かつやる気がなく見える人は、テストステロンが極めて低い可能性が高いですね」
つまり肥満は、テストステロンが低くて意欲減退になりやすい、というサインなのだ。意欲減退が生じないための対策は、同時に肥満防止になるともいえる。共に最強の「意欲向上」の極意を学び、スレンダーかつ意欲的という、テストステロン大全開の人物を目指そうではないか。
【意欲向上の極意1】
積極的に社会参加しよう——家に閉じこもるほど、テストステロンは低くなっていく
・必要とされないと、テストステロンはどんどん減っていく
すでに学んだように、意欲減退は、テストステロンが減ることで起こる。ではテストステロンを上げ、なるべく意欲的でいられる方法はあるのだろうか。
「たとえば、単身赴任のお父さんが家に帰ってくると、テストステロンがガクンと下がるというデータがあります。なぜかといえば、家ではリラックスしているから。いろいろと考えたり、判断したり、アピールしたりする必要ないからです。このように、テストステロンは、自分を表現する必要のない場所だと必要ないから、下がるのです」
つまり、自宅のようなリラックス環境では必要がないから、テストステロンは下がる、ということだ。だから、テストステロンを上げるには、リラックスしない環境、すなわち考えたり、判断したり、アピールしたりと、自分を表現する場所に行けばいいのだ。要するに、家に閉じこもらず、積極的に社会参加せよ、というわけである。
よほどのうつ状態でない限りは、「意欲が必要とされる場所」に身を置き続けることが、意欲減退を予防・解消する方法といえるだろう。
・テストステロンアップで最強のチーム作り?
このメカニズムは、部下や後輩を育てる際にも使えるだろう。誰かにほめられて「もっとがんばるで!」なんて思うのは、誰でもあることだろう。内心好意を寄せている相手の言葉だったらなおさら意欲倍増である。
それはさておき、堀江氏は「そう、人間って意外と単純で、ほめられるとテストステロンは上がるんです」と話す。
「ほめる」ことは、ホルモンの観点からもやる気の源泉なのだ。後輩や部下は、叱るより、よっぽど残念な部下でもない限りは、なるべくほめてみよう。すると相手のテストステロンが増え、意欲が高まって、早く学んだり、成果を出したりする。
加えて、堀江氏によれば、「テストステロンが高いと、リスクをとることを恐れず、判断力や決断力も増す」というのだ。最強のチーム作りは、テストステロンを上げられるかどうかにかかっている、といってもいいかもしれない。
・人間のプロトタイプは女性——テストステロンが人を外へと向かわせる
「テストステロンとは、一言でいえば、『男性になるためのホルモン』です。実は人間のプロトタイプは女性であり、胎児のときに染色体が変化してテストステロンが出てくると、男性器ができるのです」
古来、男性は外で狩りをしたり、戦をして戦利品を勝ちとったりしてきた。このように外へ外へと向かう本能は、テストステロンの働きなのだ。それを現代に置き換えれば、社会に出て自分を表現するということになる。
「ですからテストステロンが高い人は、新しいことにチャレンジするとか、組織のトップに立つとか、何かを勝ちとるといったことに興味があるし、適性もあります。『英雄色を好む』なんていいますが、戦に向かうのも女性に向かうのも、同じテストステロンの働きだと思えば、人体の必然といえるわけです」
英雄だけではない。政治家や芸術家、企業のトップは総じてテストステロンが高いと考えられるという。自分を表現するには、高いテストステロンが必要なのである。
<次回記事『「目標のある運動」を趣味にしよう ││ Shall We Dance?』は8月2日(木)更新>