作家として一皮むけるためには、プロットは10行で書く!/今野敏×吉川英梨

昨今、映画やテレビドラマ、小説など、幅広いエンターテイメント業界で注目される「警察もの」。今回は、デビュー以来40年、第一線で執筆を続け、警察小説の開拓者とも言える今野敏さん、警察小説の新旗手として注目を集める吉川英梨さんの対談が実現した。後篇では、おふたりのデビューの経緯からプロットの作り方やキャラクターの描き方など、現役作家ならではのエピソードや創作上のコツを紹介する。シリーズものや映像化が多い警察小説ならではの創作秘話など、ミステリ好きや作家志望者のみならず、警察もののファンすべてに読んでいただきたい。(聞き手:中村優子、企画・構成:アップルシード・エージェンシー

「作家になりたい」というモチベーションだけではデビューできない

—おふたりのデビューのきっかけをお聞かせいただけますか。

今野敏さん(以下敬称略) 僕は、石ノ森章太郎がまたいとこだったので、本当は漫画家になりたかったんですよ。ただ、周囲に反対されたので、漫画家は諦めました。作家になりたいと強く思っていたわけではないけど、ストーリーを作るのが好きというのは残っていたんでしょうね。大好きなジャズの山下洋輔トリオのドラマーがトリオを脱けたとき、悔しくて悔しくて。この思いを誰かに知ってほしいと「怪物が街にやってくる」という小説を書いて新人賞に応募したら、審査員にジャズ好きの筒井康隆さんがいて、目にとめていただいたんですよね。

吉川英梨さん(以下敬称略) 私も少し先生と通じるものがあるかもしれません。私は脚本家になりたくて、ずっと修業していました。その後、ボランティアにはまっていた時期があり、社会を変える仕事をするために大学で勉強しなおそうと考えて、学費のための賞金稼ぎで小説を書こうと思い立ったんです。ところが、ちょうど当時働いていた介護の会社で大きな事件があり、その悔しい思いをすべて物語に反映させた。時間がなくて誤字脱字だらけだったと思うんですけど、編集者さん曰く「凄いパワーだった」と(笑)※吉川さんのデビューの経緯は、同時連載中の『コギャル(?)が警察小説家になるまで』でも、ぜひご覧ください。

今野 そう、やっぱり、小説ってね、テクニックとかじゃなくてモチベーションなんですよね。僕は江戸川乱歩賞の選考委員をやっているんですけど、最近の作品には、書き手のモチベーションが感じられないんですよ。あるのは、「作家になりたい」というモチベーションだけ。それじゃ面白いものは書けないですよね。

シリーズの主要登場人物に「子ども」は登場させないほうがいい理由

—デビュー以来、今野さんは40年、吉川さんは10年、第一線で警察小説を書き続けていらっしゃるので、シリーズものが多いですよね。

今野 45歳の時に警視庁強行犯係の樋口顕(※)を主人公とした『リオ』という作品で、初めて自分と同じ年齢の主人公を書いたんですが、その頃までは主人公はたいてい自分より年上だった。例えば、「安積班シリーズ」を始めたのは30代のときだったから、45歳の安積を「すごい大人だな」と思いながら書いてたわけです。安積は「サザエさん方式」で年をとらない設定ですから、ずっと45歳。ところが自分が45歳になってみると、たいして大人でもないんですよね。主人公の年齢を自分が追い越していくという、これは体験としては面白かったですね。

※警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ……シリーズの作品が、NHK-BS(主演:鹿賀丈史)、テレビ東京(主演:内藤剛志)、WOWOW(主演:奥田瑛二、緒形直人)でドラマ化されている。

吉川 現在、今野先生は60歳を過ぎていらっしゃいますが、60代から40代を見たときっていかがですか。

今野 可愛いなと思いますよね。つまり、ずっと大人で偉そうだと思っていた安積警部補という人の可愛さが描けるようになる。しょせん男ってみんな子どもですからね、「こいつガキやな〜」という部分があります。

吉川 あ、女から見たときと同じなんですね(笑)

今野 吉川さんが手がけているシリーズでも、いずれそうなるんじゃないですか。

吉川 そうですね。「ハラマキシリーズ」(※)は、主人公の原麻希が38歳からスタートして、最新刊では43歳です。子持ちという設定ですから、年齢を上げていかないと不自然になってしまうんです。

※ハラマキシリーズ……2011年から始まった女性捜査官・原麻希が活躍するシリーズで、現在までに10作と続いている。シリーズ第一作『アゲハ 女性秘匿捜査官・原麻希』は瀬戸朝香主演でドラマ化された。

今野 俺はシリーズものが多いので、主人公や周辺の人物はあまり年をとらせないことを最初に決めたんです。ところが、『隠蔽捜査』の主人公の竜崎には息子がいる。しかも受験生だから、いつまでも受験生だとおかしい。だから、次の『果断 隠蔽捜査2』(※)で、みんな1歳だけ年をとって、今、そこで止まっています。子どもってやつは成長しやがりますからね(笑)

※『果断 隠蔽捜査2』……長男の不祥事により警察庁から所轄に左遷された主人公・竜崎が立てこもり事件に遭遇する。山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞した傑作警察小説。

主人公の単一視点で書けば、作品の特色も出しやすくファンも増える

吉川 今野先生は、たくさんシリーズを手がけていらっしゃいますけど、各シリーズを始めるときにはどんな特色を出そうかとか、悩まれたりしますか。

今野 あまり考えてないかなあ。もちろん、キャリアだったり所轄の刑事だったりと、主人公の属性や設定は変えます。だけど、結局、人物を描いていくとなると、自分が出てしまうので、変えようと思ってそんなに変わるものでもないですね。

吉川 なるほど。

今野 ただ、語り部としての主人公を設定するにあたって、あるときから工夫はしています。それは、主人公の単一視点で書くようにしたこと。これはなんと素晴らしいことに、書きやすくなっただけでなく、シリーズの特色も出しやすくなり、なおかつ読者も増えました。

吉川 ミステリって、複数の視点からのほうが書きやすいですよね。

今野 そう思うじゃないですか。でも、多視点は、神の視点が存在する英語圏など海外の言語には向いているけど、日本語には合わないと思うんですよ。多視点で書くと、こっちで書いたことをこっちで書いていいのか検証しなきゃいけなくなる。単一視点だと混乱がないし、読者は共感しやすいのか、ファンがぐっと増えましたね。

吉川 シリーズ化して巻数を重ねるごとに、プロットがどんどん複雑になってしまう。ネタも事件もかぶらないようにしないといけない。語り部も増えてきて、その整合性をとるまでにゲラまで苦しむ……そうなりつつあって(笑)

今野 ですよね。だから逆ですよ。どんどんシンプルにすればいい。

吉川 今回、先生のシリーズを読ませていただいて、本当に驚いたのがシンプルであることです。そこにいけるのが凄い。

「プロット10行」VS「プロット短編1本分」

今野 俺、若い編集者に「プロットを書いて下さい、と言った時点でアウトだ」と言っていますよ(笑)俺が若い頃はそんなことなかったのに、今はそういう編集者ばっかり。プロットを書くようになって、小説が売れなくなったんだよ、絶対。だって、つまんないもん。作家が「もう1回どんでん返ししてみよう」とか頭でこねくり回し始めると、読者もうんざりするんですよ。作家が書きたくないことって、読者も読みたくないんです。

—プロットがないということは、白紙の状態から書き始められるのでしょうか。

今野 いやいや、多少はありますよ。シリーズものの場合、登場人物は決まっているので、たぶん10行ぐらいじゃないですか。例えば、銀行のネット取引がダウンして、事件が起こる。さて、犯人は誰でしょう?……って(笑)

一同 大爆笑

今野 それで、犯人を年配のやつにしようかな、若いヤツのほうが面白いことになりそうだな、ちょっと天才的な高校生と主人公を勝負させようか……と考えて、方向性が決まっていくと、500枚は書ける(笑)

吉川 私はA4で30~40枚のプロットを書きます。

—(同席していた吉川さんの担当編集者)吉川さんのプロット、短編1本ぐらいあります。

今野 ええ!(笑)それじゃプロットで十分じゃないですか。

吉川 それだけ書いて人物にしゃべらせないと方向性が見えないんです。

今野 そんな苦労したくない(笑)書きながら考えればいいんですよ。

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任侠浴場 (単行本)

今野 敏
中央公論新社
2018-07-18

この連載について

初回を読む
警察官も読んでいる「警察小説家」対談 今野敏×吉川英梨

吉川英梨

『相棒』に『絶対零度』、『刑事7人』、『遺留捜査』など、この夏もテレビで刑事の姿を見ない日がないほど、刑事ドラマが人気を博している。一方、不況と言われる出版業界でも、シリーズものの警察小説は気を吐き売れ行きは好調だ。女性には珍しい警察...もっと読む

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コメント

jiretsukazakiri デビューのきっかけ面白いな~。モチベーション大事!間違いを恐れず熱量で向かっていくの大事だな~ https://t.co/0wMLZ08EbF 22日前 replyretweetfavorite

hi_lite_smoker >終わりが見えてきたら、既に書いたところから伏線を探す。(略)それを思いついたときの快感たるや半端ない さんまが言う「笑いの神様が降りてくる」みたいに「伏線回収の神様が降りてくる」感じなのかな。 https://t.co/zKAHzLILBD @yoshikawaeri 4ヶ月前 replyretweetfavorite

avotte このおじいちゃんもたいがいだな!(褒め言葉 >実は、三重県警の警察の人って、半分が忍者なんです。しかも、実は日本の中枢を牛耳っている。だって近くに伊勢神宮がありますから(笑) https://t.co/0mcDkuyGWC 4ヶ月前 replyretweetfavorite

granat_san 面白い対談だった。プロットに関してはすごく参考になった。 4ヶ月前 replyretweetfavorite