ここまで、赤ちゃんの観察をし、赤ちゃんなりのものごとの考え方、全身運動のやり方、コミュニケーションの方法について見てきました。赤ちゃんは記憶し、予測します。感覚で受け取り、運動で働きかけます。大人に自分の姿を重ねます。他者の気持ちを感じながら世界を探索します。そんな赤ちゃんたちの気持ちが見えてきたところで、今度はぼくたちが赤ちゃんのきもちになりきってみましょう。
ぼくはこの連載を書いている今は子育て経験もないですし、発達心理学や認知科学の修士・博士でもありません。大学では社会学の質的調査法を学んでいました。そんなぼくでも、赤ちゃんと関わる仕事を3年続けています。そしてそれはとっても楽しいのです。みなさんはなんらかのきっかけでこの連載を読んでいただいているかと思います。もしかしたら、自分や知人や親戚に赤ちゃんが生まれて、これから赤ちゃんに出会うための興味として読んでいただいているかもしれません。みなさんとその楽しみが共有できれば、これほど嬉しいことはありません。
この回では、実際に「赤ちゃんと関わろう」というときに、大人はどんなきもちでいればいいのかを書いてみようと思います。それは、赤ちゃんは他者であることを認識したうえで、自分の中の「赤ちゃんの心」を発見することです。
赤ちゃんとわたしは違う
赤ちゃんは他者です。たとえ自分の子であっても。私があなたではないように、彼もまたあなたではなく、私ではない。血がつながっていても、赤ちゃんは他者なのです。
しかも、自分との差がかなり大きい他者です。まず、身体のサイズが違うので、目線が違います。頭の重さも違います。とれる姿勢も移動の仕方も違いますし、運動能力も違います。視力も、音の聞こえ方も、匂いや触り心地の感じ方も違います。
そして、ぼくたちが普段使うような言葉は通じません。「キッチンの棚を開けてはいけないよ、危ないからね」と言っても何のことかわかりません。動きや声のリズムの方を感じとっています(キッチンの棚を開けて危ない思いをしたことがあれば、月齢によっては「キッチン」という言葉を聞いて、近づいてはいけない場所という意味がわかる場合もありますが)。
経験値も違います。水が上から下に流れることや、磁石で物が壁にくっつくこと、スイッチを押して電気をつけることなども、いままさに経験し学んでいる最中です。
他にも異なる点をあげればきりがないのですが、これだけ感覚が違うのだから、かなり異なります。ですから、完璧に彼らが感じている世界を理解することは不可能です。でも、想像することはできます。
赤ちゃんの身体を借りる
ぼくが一緒に赤ちゃん向けワークショップをつくったチームでは、赤ちゃんの目線で考えることをBird Viewならぬ「Baby View」と呼んでいます。
「Baby View」とは赤ちゃんの中に入り込んで赤ちゃんのからだを借りるかのように、赤ちゃんが感じている世界を想像することです。「view」というと視覚だけのことのように感じますが、身体の大きさ、運動感覚などもふくめて想像できると、より解像度が上がります。
この眼差しを身につける方法はいくつかありますが、YouTubeを使ってできる方法をご紹介します。
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