片思いの彼が、withでテキトーに恋人をつくったから思わず告白した

真由美(22)は、古民家カフェで働く吉沢孝(23)に1年以上も密かに片想いをしていた。けれど、吉沢がマッチングアプリで彼女ができたと言い出し――
LINEで、SNSで、出会い系アプリで。いま恋のリアルは、スマホの向こう側に広がっています。かつてなく加速してからまりつづける男女の運命は、どこに向かうのでしょうか。

#真由美 #22歳 #大学生 #告白もしてないのに失恋なんてありえない

「オーダー入りまーす。タコライス二つとフライ盛りお願いしますー」

「了解。そっちはドリンクよろしくな」

 私は注文を読み上げて、キッチンにいる吉沢に見えやすいようにオーダーの紙を吊す。吉沢は揚げたてのポテトをフライヤーから取り出しながら、冷蔵庫を指さした。
 十九時を過ぎると店内は一気に混み始めて、ほとんど満席近くになった。

 冷蔵庫からビールと冷たいグラスを取り出して、泡立て過ぎないように注ぎながら、吉沢のほうを覗き見る。

「まだ水曜なのに混むねー。もうちょっと暇ならいいのに」

「それじゃバイトの俺たちはクビになるだろ」

「えーそれは困る。じゃ、適度な感じでお願いします」

「なんじゃそりゃ」

 私が愚痴ると、吉沢は笑いながら額の汗を袖でぬぐった。

 大学の近くにあるランチで人気のカフェが、夜の営業開始でスタッフを募集していると聞いたのは、去年の暮れのことだった。四人いる夜のスタッフのうち、吉沢とは歳も近くてすぐに仲良くなった。

 吉沢は一つ年上のフリーターで、将来飲食店を開くためにいくつかの店を掛け持ちで働いていた。
 背は高くて、体つきもしっかりしている。
 カフェより引っ越し業者が向いてるんじゃないのって、常連さんにからかわれるくらいだった。

 閉店作業を始めてまもなく、吉沢はキッチン掃除の手を止めると、おしゃべり好きな私を差し置いて急に口を開いた。

「そういえばさ、俺、彼女できたんだ」

「え? 彼女?」

 彼女? 今、彼女って言った?  あんまりに驚いたから、つい手元で数えていたお札の数を忘れてしまった。  動揺しないようにめくり直すけど、もう全然頭に入ってこない。

「先週の日曜日に、一緒に出かけた女の子から告白された」

「どこで知り合ったの?」

「withってアプリ」

「え! アプリで知り合った子と付き合ったの?」

「ああ。会ったのは初めてだからよくわからないけど、三駅先に住んでる同じ歳の会社員」

 吉沢は洗い終わったタオルを漂白剤に浸しながら、照れくさそうに俯いている。

「……その子のこと、好きなの?」

「まだわかんない。でも、悪くないなって思ったから」

 好きでもないのに付き合ったのかよ。
 と、心の中で突っ込みを入れる。
 告白されたから付き合うなんて、中学生じゃあるまいし。
 それなら、一年以上あんたに片思いしてる私は一体なんなのよ。

「ふうん、そうなんだ」

 おめでとう。
 なんて口が裂けても言えなくて、ゆるんだヘアゴムを結び直すと、レジのお金を数え始めた。
 ロングが好みだって聞いたから伸ばし始めたのに、今も全然気づいてもらえない。

 吉沢は一瞬こっちを見た後、めずらしく鼻歌をうたいながら手を動かした。

#吉沢孝 #23歳 #フリーター #withで出会った女の子

「マジで探せばいい出会いもあるんだって」

「いやーたまたまじゃないですか?」

「最近は性格診断で相性もわかるアプリもあるし、試しに登録だけでもしてみなよ」

 長年独り身だったバイト先の常連さんが、なんとマッチングアプリで彼女ができたって自慢した話で盛り上がって、俺もその場で無理やり登録させられた。
 大学で誘われる合コンは面白くないし、多分、アプリも意味ないだろう。
 そう思っていたけど、いざ登録してみると、帰り道にいい感じの子を一人だけ見つけた。

 メグミ(24歳)北海道出身、東京在住。派遣社員。

 黒髪ロングのいかにも女性らしい見た目で、そこそこ好みだった。
 しかも、性格診断は俺と同じ努力家タイプ、恋愛面も落ち着いた関係が理想だと書かれていて、相性がかなりよさそうだった。
 こんなことまでわかるんだなと感心しながらプロフィールを見ていると、向こうからいいね!が届いて、俺も慌てて押し返した。

「はじめまして、メグミです。よろしくお願いします^^」

「こちらこそよろしくお願いします。都内に住んでるんですか?」

「ざっくり東のほうです。孝さんはどのあたり?」

「俺も東寄りで、ちょうど谷中にある古民家カフェで働いてるんですよ」

「……もしかして交差点のとこの? 有名ですよね、私も行ったことあります!」

 バイト先を知っていると言われて、ちょっとテンションがあがった。

 その後も、バイトの合間にLINEでやり取りを続けた。

 メグミは料理をつくるのが好きらしく、Instagramでも同じ人をチェックしていた。あとは最近つくったレシピを交換したり、お互いのお気に入りの店の話でも盛り上がることができた。
 だから、実際に池袋で会うことになったときも、会話に困ることはなかった。

「料理つくってる間って、なにも考えなくていいからいいよね」

 メグミはワインを飲みながら、しみじみと呟いた。
 写真で見るよりも美人で、人なつっこい話し方だった。

「たしかにストレス発散になるよな」

「たまにぼんやりしすぎて、調味料はかり間違えちゃうこともあるけどね」

 メグミは恥ずかしそうに笑って、俺の手に触れる。
 こんなふうによく知らない女の子と親しげに話すのは、不思議な感じだった。

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#ワン・モア・ライク! #ワン・モア・チャンス? #マッチングアプリで恋をして

大塚美和

LINEで、SNSで、出会い系アプリで。いま恋のリアルは、スマホの向こう側に広がっています。かつてなく加速してからまりつづける男女の運命は、どこに向かうのでしょうか。

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miwa_otsuka 第8話公開されました!片想いしてる相手がアプリで彼女つくっちゃったはなしです。https://t.co/OYXEXLZTZq #小説 3ヶ月前 replyretweetfavorite