思い出を漫画に描くことで、忘れていた気持ちを思い出した

デビュー漫画『大家さんと僕』が55万部突破の大ヒットとなったカラテカ・矢部太郎さんと、『ニューヨークで考え中』などで人気、漫画家でアーティストの近藤聡乃さん。お互いがお互いの作品のファンというお二人が、エッセイ漫画のこと、親孝行のこと、モテ期のこと、将来のこと――様々なテーマを語り合いました。前編・後編でお届けします。同時公開の『大家さんと僕』ニューヨークで考え中②』試し読みとあわせてお楽しみください。

初対面だけど、実は20年前から……

近藤聡乃(以下、近藤) 『大家さんと僕』は編集者の方が日本から送ってくれて読んだのですが、とても面白かったです。頂いた本を読むとき、「どうやってこれを褒めたらいいかな……」と悩むこともあるけれど、今回はすぐに伝えたい言葉が浮かんできて、編集者さんに長文のメールを書きました。「いつか会えたらいいですね」と言っていたらこんなに早く実現して、大変嬉しいです。

矢部太郎(以下、矢部) こちらこそ、ありがとうございます! 編集者さん経由で近藤さんの感想をお聞きして嬉し過ぎて、初めは信じられない気持ちでした。僕は純粋に、ただの近藤さんのファンなので、対談の機会を頂けて光栄です。

近藤 私が矢部さんのことを初めて知ったのは、20年前くらいの深夜番組でした。「歌丸痩せ我慢」と相方の入江さんが言うと、矢部さんが震えるというネタをされていて。

矢部 自分たちのネタですが、何だそのネタは……(笑)。それは『ブレイクもの』というネタ番組です。5週勝ち抜くと4分のネタができる仕組みで、僕たちは一応勝ち抜いてネタが出来たのですが、まさかそれを見ていらっしゃったなんて嬉しいやら恥ずかしいやら……。

近藤 そのフレーズがかなり鮮明に記憶に残っています。

矢部 僕が近藤さんの漫画を初めて読んだのは、「コミックH」(ロッキング・オン)に掲載された「虫時計」。引き出しを開けると気持ち悪いのがいっぱい出てきたあのページは、ちょっとしたトラウマになってます(笑)。たぶん僕がこれを読んだのも20年前くらいです。

近藤 そんなに経つんだ……私の方はもう記憶が薄れつつある……。

本職の漫画家ではないけれど

矢部 近藤さんはスクリーントーンを使わず、全て手描きで描かれているんですよね。それって、驚異的にすごいことです!

近藤 日本の街並みなど資料写真は編集者さんが撮って送ってくれますが、漫画を描くのは一人でやってます。

矢部 すご過ぎる……。下書きしてGペンで?

近藤 そうですね、昔ながらの手法です。

矢部 僕も初めは紙に鉛筆で描いてみたのですが、あまりに消しゴムをかけすぎて紙が破れたので、早々にデジタルに移行しました。文明の利器に助けられて今があります(笑)。『ニューヨークで考え中』のお話はどうやって考えるのですか?

近藤 ほとんど毎日家にいるので、家で考えています。だから家での出来事や窓から見えるものを描くことも多くて(笑)。後から見返さないので、習慣的にネタをメモすることもありません。矢部さんはどういう日常なんですか?

矢部 僕は日雇いみたいなものなので、「明日はこのロケ、明後日はあそこで営業」と予定が決まるのはいつも直前。でも、週末は東京にいられることが多いので、土日で漫画を考えたり描くようにしています。最近はありがたいことに漫画の仕事が増えていて、一人で黙々と作業をするのは大好きなので、バラエティに出るより正直楽しいです(笑)。

近藤 芸人さんなのに(笑)。でも私も、最近は漫画に100%力を注いでいます。連載が2本あるので、注がざるを得ないとも言えますが。

『ニューヨークで考え中』のここが好き!

矢部 『ニューヨークで考え中』で僕が特に気に入っているのは、「お気に入りの靴」のエピソード。連載の初期の話で、すごくテンポが良くて、僕の体にスッと入ってくる感じがしました。

しかも、この「ナイスブーツ!」は最高ですよね。

近藤 日本にいる時よりも、他人から持ち物を褒められる機会が多いですね。私もちょっとやってみようかなと、実際にまったく知らない人を褒めたこともあります。気分がノッてる時だけですが(笑)、道ですれ違うときに素敵な人がいたら「ナイスですね!」って。

矢部 確かに、日本ではできないけど、アメリカではなんかできそうな気がする(笑)。あ、先ほどの話で言えば、この電線にスニーカーがぶら下がっている話は、確かに家の中から見た景色だ!

近藤 もともとは「この通りで麻薬が売っています」というサインだったという説があるのですが、いまはただの遊びみたいで。ぶら下げる瞬間も見たことがあって、「シュッ!」と見事にかけちゃうんですよ。

矢部 本当によく窓の外を見ているんですねぇ(笑)。「はじめてのにほんご」も大好きです。

日本語を勉強中の近藤さんの旦那さんが平仮名を覚えるお話の中に、「かわいい平仮名」って何か考える場面があって、そこが特に印象的でした。「ふ」がかわいいって、すごくよく分かるな~って。僕には踊っているふうに見えます。

近藤 文字への第一印象って、慣れると忘れちゃいますよね。アルファベットの何がかわいいかなんて全然覚えていませんし、そもそもかわいいって感じたかも覚えていない(笑)。

矢部 文字からはちょっと逸れますが、兵庫県のかたちってかわいいですよね。タコみたいで(笑)。

近藤 富山県もかわいいですよ、猫のかたち。

矢部 群馬県は鳥みたいだし。

近藤 確かに!

矢部 思わぬ盛り上がりをみせた(笑)。

近藤 でも、あの出来事からだいぶ経つので、「ふ」がかわいいと思った気持ちは夫も忘れているんじゃないかな。でも漫画を読み返すことで当時の「気持ち」がよみがえるから、エッセイ漫画ってそういう良さがありますよね。描かれることが嫌なこともあるかもしれませんが……(笑)。

矢部 そうですね、僕も大家さんとの思い出を漫画に描くことで、忘れていた気持ちを思い出したりもしました。

近藤 『大家さんと僕』の私のお気に入りも、次にぜひお話させて下さい。

(後編に続く)

後編「これからどんどんモテ出したら、漫画の中身も変わってくるかも?」は7/31更新予定。お楽しみに!

開催:神楽坂「la kagu」
写真:新潮社写真部


奇跡の実話漫画に、日本中がほっこり。


大家さんと僕
『大家さんと僕』特設ページ

ガイドブックを通して見るニューヨークは、輝いている。私の目に映るニューヨークは……むしろ、すすけている!!? 近藤聡乃がお届けする、等身大のつれづれNYライフ


ニューヨークで考え中
『ニューヨークで考え中』特設ページ

この連載について

矢部太郎×近藤聡乃「ニューヨークでも新宿でも考え中、近藤さんと僕」

矢部太郎 /近藤聡乃

デビュー漫画『大家さんと僕』が55万部突破の大ヒットとなったカラテカ・矢部太郎さんと、『ニューヨークで考え中』などで人気、漫画家でアーティストの近藤聡乃さん。お互いがお互いの作品のファンというお二人が、エッセイ漫画のこと、親孝行のこと...もっと読む

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reonarl ほっこりした。おやすみなさーい https://t.co/F4quyqP175 約2年前 replyretweetfavorite

wakakos すきな二人の対談→  約2年前 replyretweetfavorite

feilong “21717” https://t.co/xFmvGpJeTL 約2年前 replyretweetfavorite

feilong “21717” https://t.co/xFmvGprDvb 約2年前 replyretweetfavorite