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薄井先生。先生、久しぶりです。和也です。
十一年ぶりですね。先生はあれから十一年間生きたんですね。お疲れ様でした、でいいのかな。
僕は二十八歳になりました。
先生のお父さんがね、僕のことを探して、先生が脳梗塞で亡くなったとわざわざ手紙を送ってくれたんです。
この家に来るのも十一年ぶりです。パパ、というか父に、The Nameを実行するためにこの家に先生を迎えに来て以来だ。十一年も経つのに、この部屋も全然変わってない。
先生の遺影、教師時代のものなんだね。笑顔じゃない。笑顔の写真がないんだって。先生らしい。
この部屋に入ったらね、先生のお父さんもお母さんも席を外してくれた。だから今、僕と先生、二人きり。
今、こうして先生の写真を見ながら、勝手に一人で話してる。僕が話しても写真の先生は笑顔も見せずに何も話してくれないから、あの時の生物室みたいだよ。まだ先生が僕の目を見て話してくれなかった時。
あの日、あの時、僕が先生の首の爆弾のリモコンのボタンを押した時。
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