■技術38 「北風」ばかり送ってもコートは脱いでくれない
「噓をつく」のか「本当のことを言わない」のか
人は誰でも噓をつきます。
こんなことを書くと、「私はこれまで生きてきて、一度も噓をついたことはありません」という人もいるかもしれませんが、そういう方は何卒ご容赦ください。これは一般論ですから。
というのも社会で仕事をしている人は自分を偽るためだけでなく、会社のため、組織のために噓をつかなければならないときがあります。交渉の場で、本当のことばかりをべらべらしゃべる人はいないでしょう。たとえ経営が悪化していたとしても、「今、うちの経営状態は非常に堅調でして、数年来ない利益を上げています」と言わなければならないこともあるでしょう。
これを、「噓をつく」というのは酷かもしれません。「本当のことを言わない」といったほうがいいでしょう。
「本当ですか。本当にそう思っていらっしゃるんですか」
「プライムニュース」の中でもそういうことはままあります。というより、本当のことを言わないことのほうが多いくらいです。
もちろんこちらとしてもそれを承知のうえでご出演していただいているのですが、選挙前の政治家の方々はとくに辻褄を合わせようとして、あきれるほど本当のことを言いません。何を聞いても「たてまえ」しか言わないと、さすがにこちらもいらいらしてきます。
僕の仕事はゲストの発言を本音に近づけることですから、どうしても聞かざるを得ません。「本当ですか。本当にそう思っていらっしゃるんですか」「ほう、そうですか」「では、こういう場合はどうなるんでしょうね」
三回も四回もしつこく質問を繰り返していくうちに、だんだんポーカーフェイスが歪んできて、目が泳ぎだします。交渉の達人は人前で簡単に表情を崩すことはないでしょう。けれど、こちらがある程度相手の本音を押さえていて、それを前提に突っ込んだ質問をしたときには必ず表情が動くはずです。その表情を見分けることが大切だと思います。
やはり相手の本音はここにあるのかという感触が摑めれば、その後の交渉の進め方も見えてきます。
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