「じゃあ、今月末までの家賃は払ってあるから。ユウカさん、しばらく一人で考えてみて」
そう言って、ぼくは荷物をまとめて、ユウカさんを残して大阪へ引っ越した。
あえてあっさり横浜を離れたのは、ぼくの意地だった。
ぼくはユウカさんに対していつだって誠実なつもりだったけど、彼女はそうじゃなかった。
彼女が自分の浮気を告白した夜、彼女は「そんなつもりじゃない」と言った。そんなつもりじゃないなら、どんなつもりだったんだろう。
あまつさえ、ぼくがはっきりしないから、そんなことになったのだと言ってきた。最初は、きっと、ぼくのことをわざと嫉妬させるつもりで、「高畑さんと会った」と告白してきたんだろう。
でも、ぼくはすぐに彼女の普通じゃない気配を感じ取った。
そもそも、うそをつくのも下手なんだから……あんなこと言わなければよかったのに。
彼女はうそをつく愛情を惜しんで自分がうそをつく苦しさから逃れた。ぼくに自分の苦しさを託した結果、ふたりとも苦しくなった。もう前のように過ごせるとは思えない。
ぼくはその時から、ユウカさんに触れていない。
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