仮面ライダー』のヒットで変身ブーム到来 ~仮面ライダーに始まる石ノ森ヒーロー③~

2010年代に入ってウルトラシリーズ、仮面ライダー、ヤマト、ガンダム、あるいは「ベルばら」「ポーの一族」等が次々と40、50周年を迎えている。これらは単に昔のものとしてあるだけでなく現役のコンテンツとして新作が発表され、映像化、舞台化されている。逆算すれば分かるが、大半は1970年代に始まった。1960年に生まれ、アニメ、特撮ものを最初期からTVで見ていた中川右介(作家、編集者)が「リアルタイムの記憶を基にして目撃譚」として描くサブカル勃興史。

記憶を辿りながら書きますが公にするからには、記憶にだけ頼り、間違ったことを書いてはいかないので、改めて調べ事実確認をして書きます。歴史家的視点と当時の少年視聴者・読者としての記憶とを融合させ「読者・視聴者としてサブカル勃興期を体験した者が書く歴史」を提示したいと思います(筆者)。

●世代が違う

1971年4月、『帰ってきたウルトラマン』と『仮面ライダー』が相次いで放映開始となった。

もはや半世紀近く前のことなので記憶は曖昧なのだが、小学5年生になった僕にとって、『仮面ライダー』は子供っぽすぎた。だからライダーごっこをした覚えもないし、カード欲しさにライダースナックを買いまくった覚えもない。4歳下の弟(1964年生まれ)が夢中になっているのを、冷ややかに見ていた。主題曲は歌えるので、それなりに見てはいたのだろうと思うが、夢中にはならなかったということだ。

子供の頃のテレビの話は、同学年以外とは「話が通じない」ことが多い。10歳前後までの幼少年期の2歳の年齢差は「世代が違う」。見ているものは同じでも、感じ方は異なる。同学年でも、兄や姉のいる子と、弟や妹のいる子とでは、見ているものが違うし、東京・大阪と地方とでも異なる。さらに、本放送で見た気になっているが、実は再放送で見たとか、記憶だけに頼ると、間違えることもある。

ともかく、1971年に小学5年生だった僕は、『仮面ライダー』に始まる「変身もの」「石ノ森ヒーロー」「東映ヒーロー」については傍観者でしかなかった。ただ、「傍観」であって「無視」していたわけではない。無視できなかったのは、それが「石ノ森章太郎原作」だったからである。

石ノ森章太郎は手塚治虫、藤子不二雄と並び、僕にとって最重要の作家だった。

だから、テレビ版は見ていないが、『変身忍者嵐』『人造人間キカイダー』『ロボット刑事』『イナズマン』『秘密戦隊ゴレンジャー』にいたる一連の作品も、石ノ森章太郎による漫画は常に雑誌で読み、単行本も買っていた。少年誌を読んでいた時期でもあった。

●「原作」をめぐる疑問

『仮面ライダー』はいまも新作が制作・放映され、膨大な作品数となり、コミカライズも多い。その全てに「原作・石ノ森章太郎」とある。

しかし、たとえば映画『戦争と平和』の「原作・トルストイ」と、『仮面ライダー』の「原作・石ノ森章太郎」とは、同じ「原作」でも、だいぶ違う。アニメ『鉄腕アトム』が「原作・手塚治虫」なのは、映画『戦争と平和』の「原作・トルストイ」と同じとしていいが、石ノ森章太郎のヒーローものは、テレビ番組として企画されて複数の人間によって創作されており、石ノ森章太郎ひとりを「原作者」とするのは、はたして正しいのか。たとえば『ウルトラマン』は、特定の個人が「原作者」としてクレジットされることはない。

石ノ森章太郎が『仮面ライダー』にどう関わっていたかは、作品によって異なる。『仮面ライダー』シリーズはテレビ、映画、コミックなど膨大な量があり、相互に関連しているものもあれば、独立しているものもある。

テレビに限れば、現在放映中の『仮面ライダービルド』は29作目にあたる。石ノ森章太郎は1998年に亡くなるが、その時点では10作目の『仮面ライダーBLACK RX』までしか作られていない。『BLACK RX』は1988年10月から89年9月までで、昭和の終わりから平成の初めにかけて制作・放映された。そのため、ここまでの10作を「昭和版」「昭和シリーズ」とすることが多い。この後、1998年に石ノ森章太郎が亡くなるまで新作は作られず、2000年になって『仮面ライダークウガ』が始まり、以後は途切れることなく、ほぼ1年ずつ続いて、現在の『ビルド』に至る。

昭和に作られた10作のなかで、石ノ森章太郎が漫画も描いたのは、最初の『仮面ライダー』と第4作『仮面ライダーアマゾン』、そして、第9作『仮面ライダーBLACK』の3作だけだ。『アマゾン』は実際にはペン入れはアシスタントに任せたとことが明らかとなっており、たしかにタッチが異なっている。

どの作品も漫画版があるが他の漫画家が描いたものであり、「原作・石ノ森章太郎」となっているものの、石ノ森が漫画としての原作を書いたわけではない。この点でも、『巨人の星』が「原作・梶原一騎」なのとは「原作」の意味が違うのだ。

いまではさまざまな事情を理解しているが、小学5年生から中学生の僕は「原作・石森章太郎とあるけれと、石森先生は何をしているのだろう」と疑問に思っていた。

●「変身」ブーム

『仮面ライダー』は大阪の毎日放送が東映と制作しており、東京のNETは出来上がったものを放映していただけだったせいか、視聴率は関東と関西とでは差があった。関西は第1回から20.8パーセントだったのに、関東は8.1パーセントでしかない。その後も西高東低の状態は続いたが、どちらも30パーセントを超えるまでになり、関連の玩具も売れて「変身ブーム」が起きた。

関連商品で最も売れて社会問題にまでなったのが、カルビー製菓の「仮面ライダースナック」だった。スナックのおまけとして「仮面ライダーカード」がつくのだが、一枚ごとに、オモテには怪人の写真、ウラにはその怪人の解説と通し番号が印刷されている。なんでも全部で546枚あったそうで、これを集めるためにライダースナックを買ってスナックは捨ててしまうということが相次ぎ、新聞などで批判されたのだ。ビックリマンチョコでも同じ問題が発生しているが、『仮面ライダー』が先である。

このほかにも変身ベルトとか、さまざまな玩具が発売され、売れに売れていた。

生意気な小学5年生たちは、教室で変身ベルトについて「ほんとに変身できるなら欲しいけど、ただのベルトだろう。ばかみたいだ」と冷ややかに語っていた。内心は欲しかった、というわけでもなく、本当にそんなものは欲しくなかった。

石ノ森章太郎自身が描いた漫画版『仮面ライダー』は、前回書いたように、講談社の『ぼくらマガジン』で連載され、同誌が休刊になると『少年マガジン』に移った。

『ぼくらマガジン』で連載されたのは、最初の約200ページ分で、第1話「怪奇くも男」と第2話「空飛ぶ吸血魔人」にあたる。第3話「よみがえるコブラ男」から『少年マガジン』に移り、いきなり公害問題から始まるなど、読者の年齢層が高くなったことが意識されている。『少年マガジン』には23号(5月30日号)から52号(12月26日号)まで掲載された。連載時は「よみがえるコブラ男」は『少年マガジン』での第1話となっている。

一方のテレビ版は、主人公の本郷猛を演じていた藤岡弘が、第9話・第10話撮影中に怪我をして降板というアクシデントがあった。本郷猛というキャラクターはそのままで、俳優を替えると子供が混乱するので、本郷はショッカーの海外支部と戦うために日本を出て、新たなライダーとして一文字隼人が登場することになった。演じるのは佐々木剛で、後に一文字隼人は「ライダー2号」と呼ばれる。いわゆる変身ポーズが導入されるのも、この一文字隼人になってからだ。

石ノ森章太郎が描いていた漫画版も、この主役交代を受けて、第4話「13人の仮面ライダー」で一文字隼人が登場して本郷猛と交代している。「13人の仮面ライダー」は、ショッカーから12人の仮面ライダーが刺客として現れる話だった。本郷猛を入れて13人となる。ショッカーから見れば、本郷猛こそが、不吉な番号である13番めのライダーなのだ。

石ノ森章太郎自身による漫画版『仮面ライダー』は、テレビよりもはるかに面白かった。社会批判もあったし、戦うことの虚無感もあった。ちゃんとした「石ノ森章太郎作品」だった。テレビでは「変身」というのが曖昧だったが、漫画版では、改造されたために感情が昂ぶると顔に傷跡が浮上し、それを画すためにマスクをかぶるという説明がなされ、荒唐無稽さを排除していた。

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2010年代に入ってから、ウルトラシリーズ、仮面ライダー、ヤマト、ガンダム、あるいは「ベルばら」「ポーの一族」などが次々と40、50周年を迎えている。それらはみな、単に昔のものとしてあるだけでなく、現役のコンテンツとして新作が発表され...もっと読む

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NakagawaYusuke 連載「すべては1970年代にはじまった」『仮面ライダー』がいよいよ放映開始です。テレビ映画ではなく、石ノ森章太郎自身が描いたコミカライズのほうを重点的に。 https://t.co/rC03pRtj0u 3ヶ月前 replyretweetfavorite