ライブの前日の深夜に、弦を張り替える。
本番直前ではなく前夜に替えるのは、替えたばかりの弦はシャンシャンときらびやかに鳴ってしまうので、リハなどで弾いてその音のきらめきを減らして、慣らしておくためなのだ…というようなことを昔からギタリストたちに聞かされてきた。
「本当かなぁ?」気のせいじゃないの? と疑わしく思っていたものだけれど、ギターを始めて「なるほど、確かにそうだ」と彼らが言っていたことが正しいのに気付かされた。
だからライブの前夜になると僕はギブソンB−25とJ−50をテーブルの上に横たわらせて、一本ずつ弦を張り替えていく。
アーニーボールのライトゲージを六弦から張っていく。
エンドピンを抜き、抜いたピンはなくさないよう、机に置いた帽子の中に入れておく。エンドピンの穴に弦の後端をつっこみ、エンドピンでふさぎ、グッと左手で弦を引っ張って、先端をギターネックの糸巻きの穴に通す。
人差し指一本分ぐらいたゆませた弦を穴の逆から引っ張り、くるりと糸巻きに一度巻いて、先端をグッと90度上に折り曲げる。
そうしてペグを巻き上げていくと、弦は穴を中心に一本の弦を挟むかたちで巻かれていく。
この巻き方は「ギブソン巻き」というのだそうだ。
ペグを巻きエンドピンを引き抜く道具は一体化されている。僕はその器具の名称を知らなかった。
アコギを買ったばかりの頃、バンドのギターテックの人々に尋ねてみると、彼らは顔を見合わせて「さぁ……」と言った。日常品過ぎてそういえば正式名称を知らないと言うのだ。
「一応僕らは、アルトベンリとか呼んでますけどね」
アルトベンリ…有ると便利、だからであるらしい。
『なるほどアルトベンリ、ナイトフベン、無いと不便の逆か』と、いつも思いながらライブ前日の深夜、僕は一人でくるくるとアルトベンリを回していく。
FOK46はライブ回数を重ねていった。