町田樹が引退を発表したので

先ごろ10月に引退することを発表した、フィギュアスケーターの町田樹。今年デビュー20周年で絶賛ツアー中のある女性歌手の方を除き、当連載で初めて複数回取り上げることになりました。「氷上の哲学者」として、演技だけでなく言葉で表現してきた彼の引退を、武田砂鉄さんはどう感じているのでしょうか?

再び町田樹をとりあげる理由

この連載は今回で224回を迎えるのだが、担当編集者が寵愛するaikoについて3回取り上げた以外、実は「同じ人物をとりあげない」というルールを守り抜いてきた。しかし、そのルールを設けたのが誰かといえば自分なので、そんなルールなど、有事を機に壊してしまえばいい。再度同じ人物をとりあげることを、自分で自分に許すことにした。なんたって、10月の公演をもって、プロスケーター・町田樹が引退すると発表したからである。同じ人物はとりあげない、なんて言っている場合ではない。

2013年グランプリシリーズの事前会見で、自身の目標について「Timshel…汝、治むることを能う。自分の運命は自分で切り拓く!」と書いた町田樹は「氷上の哲学者」などと呼ばれたが、メディアがそういう呼称でとりあげたのには、リスペクトというより、自分たちの手に負えない発言を茶化す意味合いが含まれていたように思う。競技引退後は早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に在籍、学業とプロスケーターを両立できない時には学業を優先するとの考えのもと、時折、アイスショーに出演してきた。現在では慶應義塾大学と法政大学で非常勤講師を務めながら大学院に通う町田、大学教員になる目標に向けて、プロスケーターを退くことに決めた。大学教員になってもフィギュアスケートについて研究することになるので、「今回も決してさようならは言いません」だそう。

軽率なアスリートの利用とは真逆

町田が繰り返し述べてきたのが、アスリートがセカンドキャリアを構築する必要性。「決してさようならは言いません」発言が、いわゆる町田節としてニュース記事のタイトルに引用されていたりもしたのだが、さようならを言わないのは、彼が「スポーツ界において『アスリートだけが主役である』という考えは、もう古いのかもしれません。つまり『スポーツを支える』人材無しに、スポーツ界は存在しないのです」(早稲田ウィークリー)との考え方を貫いてきたからこそ。

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3839Ay 町田はハッキリと、「アスリートが競技者人生の大半を費やして磨き上げるスキル(競技力)と、実社会で求められるスキルとの間に見られる齟齬が、アスリートのセカンド… https://t.co/hjHyAo0Hj3 3ヶ月前 replyretweetfavorite

kulkaraku 「身体運動の文化としてのフィギュアスケートのために、身体を使い続けるよりも、言葉を模索する選択」 アスリートのセカンドキャリアについて。そして競技の言語化について。 10ヶ月前 replyretweetfavorite

yuichi0613 "現役時代から、言語化は競技力を向上させるとの考えに基づき、言語化することを徹底してきた町田…もしもスランプに陥った時に、そこに残されている言葉を追いかけていくように修正することができるから" 10ヶ月前 replyretweetfavorite

dolcevita0204 武田さんは本当に町田樹さんが好きなんだな。丁寧な考察。 10ヶ月前 replyretweetfavorite