ぞうきん派VS クイックル・ワイパー派
【登場人物】
清田隆之
桃山商事・代表
1980年生まれの文筆業
森田雄飛
桃山商事・専務
同じく1980年生まれの会社員
ワッコ
桃山商事・係長
1987年生まれの会社員
清田 今回も前編に引き続き、「ケンカの火種」をテーマにお届けします。
森田 いろいろな角度から、ケンカのきっかけとなったエピソードを紹介していく企画になってます。
ワッコ 前回は、生活のなかで起こりがちな些細なケンカの火種が中心で、発言小町みたいなエピソードが続々と出てきましたね。
清田 確かに小町感は強かったね(笑)。
森田 ただ、些細で日常的だからこそ、本質が見えることもあると思うんだよね。というのも、ケンカの火種を考えていくと、「自分はどういうことに対しておもしろくないと感じるのか」といった傾向が見えてくる気がしていて。少し大げさにいうと、自分を見つめ直す契機になる。
清田 何か具体的に、そういうことがあったの?
森田 また小町系の話になるんだけど、うちの夫婦は週に一回時間を決めて、二人で掃除をするんだよね。俺は床掃除の担当で。
清田 専務は俺とルームシェアしてる時も、よく床を拭いてたよね。
森田 そうそう。結婚してもそれまでのやり方どおり、ぞうきんで水拭きしていた。一方の妻はクイックル・ワイパー派で。
ワッコ 家事の「宗派」みたいなものってありますよね。
森田 クイックル・ワイパーはホコリとか毛は取れるけど、ぞうきんはそれに加えて汚れも取れる……というのがぞうきん派であるところの俺の考え方です。クイックル・ワイパーなんていらない!っていう。
清田 ぞうきん原理主義者(笑)。
森田 でもある時、妻から「床に毛がちょっと残ってることがあるから、クイックル・ワイパーをかけてから水拭きをしてほしい」と言われたの。
ワッコ まっとうな言い分ですね。そっちのほうがぞうきんがけも楽なんじゃないですか?
森田 ただ、俺はぞうきん万能説に囚われていたし、何よりぞうきんがけはクイックル・ワイパーよりも掃除としては「上等」だと思ってたんだよね。だから意見をされてカチンときた。
清田 自分のなかに確固たる上下構造があったわけね。下に見ていたクイックル・ワイパー派からの意見は、素直に聞けなかったと。
森田 すごく意固地になってしまって、結果的にケンカになっちゃった。別にぞうきんがけを否定されたわけじゃないのに、「じゃあもう、一生ぞうきんがけはやらない!」とか言って。
ワッコ 完全に子どもじゃないですか。
森田 そうなの。これは自分の悪い癖だなって、後から思った。ある事柄について、相手よりも自分が「上」であることに疑いをもっていない時に、意見をされると腹が立って、素直に聞けない。
清田 正当なのはこっちなのに、なんで意見されなきゃいけないんだって思っちゃうわけね。
森田 プライドが高いだけなのかもしれないけど、妻からすると、それが発動されるポイントがズレてるから戸惑うみたい。
ワッコ 確かに、ぞうきんがけにプライドを持ってるとは思わないですよ。
森田 結局ケンカの後に反省して、今はクイックル・ワイパーをかけてから水拭きしてます。そっちのが全然楽だし、キレイになるし。
ワッコ 両方の宗派の顔を立てたら、全体がよくなったわけですね。
ぞうきんVS クイックル・ワイパー
ケンカの火種は「氷山の一角」
ワッコ 今の話で思い出したんですけど、友達が夫と買い物に行ったときに、豆腐売り場でケンカしたらしいんですよね。
清田 豆腐でケンカ! いかにも日常って感じだねえ。
ワッコ その子は買い物をするときに、できるだけ賞味期限が迫っているものを選ぶ派らしいんですよ。だからその時も、2日後が賞味期限の豆腐を買おうとした。そしたら彼が「なんでわざわざ古いものを買うの? 値段は変わらないんだから、新しいのを買おうよ」って言ってきたらしいんですね。俺たちが食べるものは新しい方がいいよ、って。
森田 彼のように考える人の方が多そうだよね。
ワッコ そこで彼女はぶちギレて、「これ、あと2日で廃棄になっちゃうからもったいないじゃん。私たちは今日食べるんだから、古いのを買った方がいいよ」と主張した。