第10回】日本は“引き分け”でよかったのか? ザック采配を問う

日本のW杯出場決定を記念して今回も臨時更新! 4日に行われたオーストラリア戦を振り返ります。試合終了間際の劇的PK“埼玉の奇跡”で歓喜に包まれた日本。でも、ちょっと待ってください。試合結果は“引き分け”。今回の日本代表は、本田、岡崎らが合流したベストメンバーだったはずです。本当にこれでよかったのでしょうか? そして、忘れてはいけないのが後半の失点。これは本当に“事故”で済ませてよいのでしょうか? ここで、ザッケローニ監督の采配を落ち着いて検証してみましょう。

リスクを回避した試合運びは
妥当だったのか?

4日に行われたブラジルワールドカップ最終予選、日本代表対オーストラリア代表は1-1の引き分けに終わった。その結果、日本が本大会出場を決めている。

「勝って出場を決めてほしかった」
そう言いたい人もいるだろう。実際に僕も試合前はそう思っていた。
しかし、前半45分でその気持ちは半分消えた。そして後半30分頃には、すべて消えてなくなった。

オーストラリアを舐めてはいけない。日本が主導権を握っていたが、特に前半はカウンターから決定機を何度も作られている。守備ブロックを作っている相手に対して「勝ちに行く」ことは相当なリスクを伴う。
ハーフタイムを経て後半、日本は無理をせず、遠藤保仁を中心に落ち着いてボールを回す時間帯を増やした。ザッケローニ監督からも指示が飛んでいたようだ。『リスクの回避』。どちらに転ぶかわからないゲームのバランスを見れば、当然の判断だったと思う。

さらに落ち着いてボールを回すだけでなく、ザッケローニ監督はハーフタイムに「(前半にやられたカウンターに対しては)最終ラインを下げて対応しよう」、「センターバック2人+サイドバックのどちらかで、必ず3人が最終ラインに残ってリスクマネージメントするように」と指示を出した。
慎重な対応だ。それもそのはず。前半にカウンターをたくさん食らった要因は、攻撃時にボールの奪われ方が悪いというのもあるが、もう一つは、カウンターの基点となる縦パスを潰せていないことに原因がある。

日本のカウンター対策を検証する

やり玉に挙げたいわけではないが、前半33分のオーストラリアのカウンターの場面。左サイドに流れたブレット・ホルマンへの縦パスに対し、内田篤人は寄せ切れず、ホルマンに簡単に前を向かせてカットインを許している。そして中央へのスルーパスからロビー・クルーズが遠藤保仁を振り切ってペナルティーエリアへ走り込み、この試合一番とも言える決定機を作った。
その直後、ザッケローニ監督はピッチサイドから内田に対し、身振り手振りを交えて「もっと寄せろ!」と指示を出している。

相手のカウンターの基点を潰せていないのは、内田だけではなかった。ボランチの長谷部誠も同様だ。カウンターは攻守の切り替え時の1~2秒程度の動き出しが鍵を握る。相手の攻撃が始まってから「寄せよう」と思っても遅いのだ。自分たちが攻撃をしている間に、常にボールを奪われたときのことを考え、縦パスを受ける基点になりそうな相手を『ロックオン』していなければ、鋭い動きで潰すことはできない。

バルセロナのセルヒオ・ブスケツなど、世界の優秀な選手にはそれが出来るのだが、現状では『ロックオン』による素早い潰しが出来て、なおかつ攻撃面でもスタメンに送り出せるレベルのボランチは日本代表には見当たらない。細貝萌はそれに近いが、ファールの多さと、攻撃面の課題は残る。前半にオーストラリアのカウンターを食らった要因の一つは、以前からザックジャパンに潜んでいた問題でもあった。

そこでザッケローニ監督はハーフタイムに、この現状を把握した上で、基点にプレスをかけて潰すのを諦め、カウンターを食らうときは最終ラインを下げて対応する指示を出した。「イチ」で潰せなくても、「ニ」、「サン」と粘り強く対応を続けようということだ。
デル・ボスケ監督が指揮するスペイン代表も、スコアを保ちたいときは、落ち着いてボールキープしつつ、ボールを奪われたら慎重に最終ラインを下げてブロックを作る、すなわち今回のザックジャパンと同種の対応をすることがある。今後、日本が世界と戦う上では重要な戦術ポイントになるだろう。ザッケローニ監督のハーフタイムの指示は正しかったと思う。

そして、この対策を嫌がったのはオーストラリアのほうだ。ボールを回され、走らされ、全員が押し下げられ、前半にはあれほど機能していたカウンターも後半には威力を失っていた。日本が行なっていたのは、バルセロナがよくやっている『真綿で相手の首を締める』パス回しだ。カウンターと空中戦以外に引き出しのないオーストラリアは、引き分けも止むなし、という様子だった。

勝って出場を決めるべきだったのか?

「退屈」?
その通りだ。残念ながら現状の日本は、昨日の守備的なオーストラリアを相手にボカスカ点が取れるほど圧倒的なチームではない。攻撃時のイージーなミスが多すぎる。バランスを崩して1点を取りに行くと、カウンターから失点するリスクのほうが遥かに大きい。

「勝って出場を決めてほしかった」
気持ちはわかる。それは『美しい考え』だろう。しかし、その結果、『美しく散る』可能性が高まることも理解しなければならない。引き分けで構わない試合は、引き分けで構わないのだ。それがサッカーだ。日本人はトーナメント戦の文化に象徴されるように、どうしてもハッキリと白黒を付けたがり、グレーを嫌がる傾向がある。

しかし、真の目的は、目の前の1試合の勝ち負けではないだろう。『本大会出場を確定させること』。そのためには1ミリの敗退の可能性すらも消す。その最大の目標に対して、本当に本当に真剣に、本気になれば、あの状況下で「勝って出場を決めてほしい」というのは僕には色気づいた発言としか思えない。

サッカーは他のスポーツに比べて、引き分けが起こる可能性が非常に高い。そして、引き分けにも『勝ち点』1が加わるルールになっている。それがサッカーだ。白黒ハッキリしないことも含めて、サッカーだ。アメリカではなく、ヨーロッパを発祥として世界に広まった、サッカーだ。
これは完全な推測だが、オーストラリア戦を「勝って欲しかった」と言う人は、本当の意味で頭の中が『サッカー』になっていないのではないだろうか。アメリカスポーツの考え方が根強く残っているのかもしれない。それが良い悪いと言いたいわけではないが、僕はそのように感じた。

もちろん『リスクを把握した上で』、「無様に引き分けて本大会に行くぐらいなら、美しく散ったほうがマシだ!」と宣言する人を止めるつもりはない。それも人生だし、素敵だ。オランダ人ならむしろそちらに同調するだろう。僕はちょっとイタリア人寄り、考えが現実的なのかもしれない。

孫子の兵法には、『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』(かれをしり、おのれをしれば、ひゃくせんあやうからず)という言葉がある。敵と味方の情勢をしっかり把握して勝負に臨めば、何度戦っても敗れることはない、という意味だ。
繰り返すが、日本とオーストラリアの試合をしっかり把握すれば、ゲームのバランスがどちらに転ぶのか不透明な状況であることは明らかだった。あの状況下で無理にリスクを冒し、先制点をねらうのは勇気とは呼べない。蛮勇だ。

ゲームの駆け引きができなければ、サッカーには勝てない。そういう意味では、日本の後半の修正、落ち着いた試合運びはすばらしいものだったと僕は評価したい。

後半の交代策と直後の失点
ザック采配を問う

ところが……褒めて落とすことになるが、
唯一、腑に落ちなかったのは79分のザッケローニ監督の交代策だ。

栗原勇蔵を投入するのはわかる。オーストラリアも72分にブレット・ホルマンに代えて、長身のダリオ・ビドシッチをピッチに送り込んでいる。パワープレーやセットプレーの対抗策として、スピードと空中戦の両方に優れた栗原の投入は当然切るべきカードだ。
驚いたのはそこではない。その交代により、ザッケローニ監督が全体の配置を大きくいじったことだ。

交代前の図のような配置を…、



栗原を投入することで図のように配置を変更したのだ。



前田遼一を下げて栗原を左センターバックに投入。今野泰幸を左サイドバックにずらし、長友佑都を左サイドハーフに上げ、香川真司がトップ下、本田圭佑が1トップ。
そのまま引き分ければ、目的を成就させられる試合で、終盤にフィールドポジションの半分、5つの配置を動かした。ちょっと僕には納得がいかない。

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「ボールだけを見ていても、サッカーの本当の面白さはわからない!」日本代表戦や欧州サッカーなどを題材に居酒屋のサッカー談義を盛り上げる「サッカー観戦術」を解説します。「サッカー観戦力が高まる」の著者、清水英斗さんによる、テレビ中継の解説...もっと読む

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コメント

likecruyff さすがに腑に落ちる説明。だからこそ逆にあの交替で何を狙ったのかが分からなくなるw 約5年前 replyretweetfavorite

rhapsody_FCB 引き分けで構わない試合は、引き分けで構わないのだ。それがサッカーだ。 約5年前 replyretweetfavorite

kaine1017 日本は“引き分け”でよかったのか?ザック采配を問う|清水英斗|cakes https://t.co/8UJMh7bJvx→試合前から引き分け狙いなんて噂があったし、引き分けは良いんだけど、あの後半のバタバタが分かりやすくて書いてあって面白かった! 約5年前 replyretweetfavorite

demetorio4 面白い。文章も読みやすかった。 “@kaizokuhide: 約5年前 replyretweetfavorite