赤坂のカエル

第22回】帰国するまでがアフガン取材

Web編集者中川淳一郎さんの人生を変えたアフガニスタン取材、完結編です。前回、ターゲットのアフガンの女子アナとスッチーの取材に成功した中川さん。取材は終わったものの、話はまだまだ続きます。同行していたパートナーのカメラマン・岩間幸司さんからある夢を聞かされた中川さんは、無謀とも言える行動に出ます。いったい何があったのでしょうか?

カメラマン岩間さんの夢

アフガニスタン6日目にして大仕事を終え、これにて任務遂行! という状況になれば普通であればカメラマンの岩間幸司さんと「じゃあ、乾杯しますか!」となるものだが、イスラム教徒の多い国・アフガニスタンには酒がない。そこで夜にホテルの食堂へ行き、スウェーデン人のジャーナリストに酒の入手方法を聞いた。

夜になっていたのでもう外出はできない。あまりにも危険だからだ。だから、仮に酒を入手する手段を得たとしても、今晩の乾杯はできない。私が期待したのは「実はホテルにあるんだぜ」というセリフだった。だが、彼は「ここにはない」と言っていた。そしてこう続けた。

「以前ここのホテルに泊まっていたアメリカ人の連中はどうやら闇ビールを買っていたらしいぜ。オレは酒は飲まないのであまり詳しく聞かなかったが、どうやらここから1kmくらい離れたところにある「チキン・ストリート」という通りの本屋にあるらしい」

なんで本屋なんだ? とワケが分からなくなったが、他の人に聞いてもこのスウェーデン人以上に詳しい情報は持っていないため、この情報に頼るしかない。

7日目、この日はマハマディンには休んでもらった。私達も休みを取った。8日目の早朝から車に乗ってパキスタンまで行くからだ。実は、この段階で私達は雇い主である雑誌「広告」編集長の嶋浩一郎さんに嘘をついていた。

嶋さんとしては、何よりも私達が無事に帰ってくることを求めていたため、少しでも危険なことはして欲しくなかった。だからこそ、帰途は行きと同様にカブールから国連機に乗ってパキスタンの首都・イスラマバードまで戻るようキツく厳命していた。だが岩間さんは6日目の夕方、マハマディンと別れる前にこう言った。

岩間 中川さん、実はオレ、学生時代からの夢がありまして。
 何ですか?
岩間 いや、博報堂の人はオレらに国連機で帰れって言ったじゃないですか。
 はい。
岩間 陸路で行きませんか?
 えっ???
岩間 一生に一度でもいいから、アフガニスタンとパキスタンの国境のカイバル峠を越えて、そこの写真を撮りたいんです。それをこの15年ぐらいずっと考えてきました。

こう言われてしまえば私も「わかりました」と言うしかないではないか。すぐにマハマディンには、2日後にパキスタンとの国境のトルハンまで陸路で送ってもらうようお願いをした。運転手には日当100ドルを出すことを約束した。ジャララバードを経由し、トルハンへ行き、そこからパキスタンへ入国。カイバル峠を越えてパキスタンのペシャワールへ行くのである。一日ペシャワールを取材し、翌日イスラマバードへ車で行き東京へ帰るというプランを立てた。

その数分後嶋さんに、「女性官僚とスチュワーデスと女子アナの取材取れた!」と報告した時、「よし、無事帰ってこいよ! 寿司をおごってやる!」と言われ、同時に「ちゃんと国連機で帰ってくるんだぞ」とも言われた。私は岩間さんとのやり取りがあった後であっただけに「は、はい……」とやや後ろめたく返事をした。

人生最高のビール!

その日は一応業務遂行、ということで水を一緒に飲みながら遅くまで過去の取材話などをした。岩間さんからは、時にエロい話なども出てきてお互い笑いっぱなしだった。朝はゆっくり11時に起きて、岩間さんには「さて」と言い、二人してムスタファホテルを出てチキン・ストリートへ。

行ってみて分かったのだが、このチキン・ストリートという場所は英語の表記の看板も多数あり、カブールで唯一ともいっていいほどの外国人向け観光ストリートだったのだ。手工芸品やラピスラズリといった装飾品、絨毯などが多数売っている。土産物屋も多く、ここだけは白人の香りがする場所だった。

さて、酒が飲める場所をここで探さなくてはならない。スウェーデン人の男は「本屋」だと言った。通りをぶらぶらと歩き、行ったり来たりするものの、なかなか本屋はない。というか、開いている店が雑然とし過ぎており、何屋なのかさえ分からない。

2往復目の途中で、なんとなく書店風の店を見つけた。ここか! 薄暗い店ではあったが、それなりに多数の本が書棚に置かれている。奥のカウンターにいる男に「hello」と挨拶をした。すると男は英語で「hello」と言う。

私は単刀直入に「ビールが欲しい」と言った。すると男はすぐに「10ドルだ」と言う。岩間さんと顔を合わせ「1本10ドルだけどいいですか?」と言ったら「そのくらいいいです!」と言う。そこで「2本買う」と言い、20ドル札を出した。すると男は何やら奥の方に声をかける。

すると、小学3年生ぐらいの男の子が外に出てくる。男は何やら男の子に言うと彼は向かいの店に入っていった。それから2分後、男の子は2本のビールを服の中に隠して戻ってきた。男はそのビールを受け取り、「20ドルだ」と言った。

私と岩間さんは満面の笑みを浮かべ、男と握手をし、そこから上機嫌になって「ついに手に入れました!!!!」と興奮しながらチキン・ストリートを闊歩し、ムスタファホテルに向かう。このビールはロシアのビールで、明らかに闇ビールである。


ロシアの闇ビール

どんなルートであの書店がビールの仲介窓口になっているのかは分からないが、私たちとしてはビールが飲めればどうだっていい。意気軒昂としながら歩いていると、絨毯屋の店先で男が私たちを招いている。

この時はもうビールを売ってもらえただけに「アフガニスタン人いい人!」という意識で、私達も満面の笑みで呼ばれるがままに店に入っていった。すると、男は絨毯の説明を英語で始める。「オレらは買う気ないよ」と伝えたら「だったら奥へ来いよ」と誘い、何があるの

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中川淳一郎

ライター、編集者、PRプランナーとして『NEWSポストセブン』などのニュースサイトの編集を手がける中川淳一郎さんのエッセイ連載! 日本のウェブ業界で、強烈な存在感を放つ中川淳一郎は、いかにして中川淳一郎になったのか。その生き様を赤裸々...もっと読む

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コメント

SALT5LOW 若いころの中川さんイケメンやなーw てか、今でもサッパリすれば大差ないんじゃなかろうか 5年以上前 replyretweetfavorite

ko_kishi このアフガン取材のお話は、中川さんの人柄が伝わってきて、とても良かった。 5年以上前 replyretweetfavorite

kohtan 闇ビールまじでうまそうや。 5年以上前 replyretweetfavorite

sadaaki 中川淳一郎さん @unkotaberuno の連載が更新です。めちゃくちゃおもしろいです。闇ビールを飲む、若き中川さんの写真は必見でしょう。 5年以上前 replyretweetfavorite