お隣さんまで数百メートル。田畑の中に自宅と店舗がある。
家を建てるということ
連載2回目に書いたように、私たちは縁もゆかりもない長野県に移住する決意をしたと同時に、家を建てる決意もしたのだけど、これについてはかなり葛藤があった。自分が幼い頃からずっとアパートやマンション暮らししか経験したことがなかったので、「家を買う」ことがとんでもない大ごとだと考えていたし、家など買える身分ではないという考え方に支配されていたところもある。だが、夫は育った環境が全く違い、中学生の時に家を建てて実家を引っ越すという原体験を持っており、結婚して子どもが生まれたらいつか家を建てるかもしれないと自然と考えていたようだった。
東京で暮らしていた時は、家を建てるということ自体を意識したことがなかった。あまりに現実離れしていたし、賃貸が嫌ならばマンションを買うことなら想像できたかもしれない。長野に引っ越してきてから、同世代の人が簡単に家を建てるのを目にすると、少しずつ気持ちが変化していった。もしかしたら、私たちも家を持つことができるのかな?
東京から引っ越してきた時はとても安く感じた家賃も、段々と一軒家の借家の家賃や、持ち家のローン相場がわかってくると、アパートに住み続けるのは意外と割高であることがわかった。アパートはバリエーションもないし、マンションは殆ど存在しないので、必然的に家を購入するという選択肢になるのかもしれない。土地が安いから都市圏で建てるより遥かにハードルが低く、トータルコストも思ったより高くない。ざっくり言うと、一般家庭であれば土地と合わせて家の面積や場所や内容によるが、2500万円から4000万円ほどで一般住宅は建てられるのではないだろうか。
アパートではできないことができるのが魅力だった。庭で絵を描く長女。
そうすると、自分達だけの敷地に一軒家で住むという選択をして、庭や畑も目の前にあって、駐車場だってできちゃう。そんな夢のような家を30歳前半で建てても、月々の支払いは凡そ7,8万円で、その環境を手に入れることができることになる。当時、生まれたばかりの長女を抱えて、手狭なアパートで子育てすることに夫婦で窮屈な思いをしていたことも背中を後押しした。子どもの夜泣きが響き渡ればビクビクし、テクテクと歩き始めれば下の階への足音が気になった。のびのびと自由に育ててあげたい。他の住人に迷惑でないかとおっかなびっくり生活するよりも、家の目の前に庭も畑も作って、快適な生活をしたいと次第に思うようになったのだった。長野にずっと住むのならば、家は買った方がいいのかもしれない。次第にそんな会話が増えていき、家に夢を持つようになっていった。