平成30年上半期「直木賞」候補、全作品を紹介します

どちらかというと軽く読めるエンタメというよりは重く訴えかけてくる小説が求められてるんだなぁ、と感じるラインナップでした。どの作品も、エンタメと社会性の狭間を葛藤しているようで、それはきっと小説という媒体がいまの時代に求められているものに対する葛藤なのかもしれません。
「京大院生が選んだ人生を狂わす名著50」がリニューアルして、cakesオリジナル定期連載。

先週に引き続きまして、今週は直木賞!

 とうとう発表は来週に迫ってきました! あなたの読みたい本は見つかるでしょうか?
 今年も多種多様なジャンルの作品が直木賞には詰まってます。
 さーて、あなたの「推しメン」(※応援したいと思える子)はどの本だっ。


①科学者小説を推したいあなたへ
②時代小説を推したいあなたへ
③地方都市小説を推したいあなたへ
④心理小説を推したいあなたへ
⑤お仕事小説を推したいあなたへ
⑥イヤミス小説を推したいあなたへ


①科学者小説を推したいあなたへ

『破滅の王』上田早夕里
(双葉社)

 第二次世界大戦中の上海。そこには、治療法のない細菌兵器が眠っていた……。細菌研究者が主人公の歴史フィクション。科学者の苦悩、壊れてゆく倫理観、戦時中の緊迫といったテーマも良いけれど、何より「いやこれほんとにフィクションなの!? 実際に起こったことじゃないの!?」と思ってしまうほど詰められた細部がすさまじかった。わたしは頭が悪いため(完全に理系用語に弱い)読み進めるのがやっとだったのですが、歴史や戦時作品が好きな方にはグッとくるのではないでしょうか。


②時代小説を推したいあなたへ

『宇喜多の楽土』木下昌輝
(文藝春秋)

 新進気鋭の時代小説作家による、デビュー作の続編。なんちゅーか、羽柴・毛利に挟まれた宇喜多秀家の、中間管理職的なきびしさというか、世渡りを手探りでやってく感じにしみじみとしてしまった……。戦だらけで、明日勝つ社長もわからない戦国時代、備前藩主(宇喜多秀家)の人生を綴った時代小説。端々から作者の備前愛を感じるのはわたしだけでしょーか。戦国好き、時代小説好きな方にぜひ。


③地方都市小説を推したいあなたへ

『じっと手を見る』窪美澄
(幻冬舎)

 富士山の見える町に住む介護職の主人公を中心とした、短編連作集。最近こういう「現代日本の地方都市特有の閉塞感」をテーマにした小説増えたなぁ。彼らの想いはつながりそうに見えてつながらないし、ここからいつでも出ていけるように見えて結局出ていくことはない。わたしたちの隣でじんわりと佇んでいる、性、生、それから死。—ものすごく2018年の日本の空気感を適切に捉えた作品です。


④心理小説を推したいあなたへ

『ファーストラヴ』島本理生
(文藝春秋)

 読んでいて、先日見た特集番組で宇多田ヒカルが「わたしにとっての初恋は両親」と言っていたのを思い出した。女子アナ志望の美人女子大生が、ある日、父親を殺した。動機は何だったのか、主人公の臨床心理士が彼女と話す中で探っていく……。島本理生さんの筆力というのは本当にたしかなもので、きちんと、丁寧に、彼女たちの歪んだトラウマを綴ってゆく。個人的に人が人をすくう話が好みじゃないのでちょっとラストのすっきり具合に戸惑ってしまったけれど、でもこれくらいすくわれた方が読後感は良いよねぇ。


⑤お仕事小説を推したいあなたへ

『傍流の記者』本城雅人
(新潮社)

そのうち映画化とかドラマ化とかされそうな新聞記者たちのお仕事小説。同期入社の6人をそれぞれ主人公とした連作短編集。社会部と政治部が対立するとか、他部署への根回しとか、内情を知ってる作者だから書けるんだろうな~と思える新聞社裏話がたくさんあっておもしろかった。しっかし、新聞記者さんになった友人が心配になるブラックぷりですね……(ってこういうことをお仕事小説に言うのはタブーですね、ハイ)。


⑥イヤミス小説を推したいあなたへ

『未来』湊かなえ
(双葉社)

「未来」とか言っておきながら、基本的に「明るい未来」なんて描かないのが湊かなえ。ひたすらろくでもない大人たちと、彼らに振り回される子どもたち。いま、湊かなえが世の中に対して描くのは「大人に壊される子どもたち」なんだな、と思うと胸が痛くなる。これは小説だからいいけど、この小説の背景には、同じように大人のせいで未来を信じられなくなっている子どもがいるんですよね……。現実ではどうかひとりでも子どもたちが未来に期待を持っていられる世の中になりますように、と願わずにはいられない小説です。


 全体的に、内容も分量も「重い!」作品が多かったですね~。
 どちらかというと軽く読めるエンタメというよりは重く訴えかけてくる小説が求められてるんだなぁ、と感じるラインナップでした。
どの作品も、エンタメと社会性の狭間を葛藤しているようで、それはきっと小説という媒体がいまの時代に求められているものに対する葛藤なのかもしれません。

 直木賞の発表は7月18日! ミーハー心全開で待ちたいと思いまーす!

この連載について

初回を読む
わたしの咀嚼した本、味見して。

三宅香帆

人気連載【京大院生が選んだ「人生を狂わす」名著50】がリニューアルして再スタート! 書籍『人生を狂わす名著50』の著者であり、現役の京大院生で文学を研究し続ける24歳の三宅香帆が、食べて、咀嚼して、吐いた本の中身を紹介するブックガイドです。

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m3_myk もうすぐ芥川賞直木賞の発表ですねっ。どんな本が候補か気になる方はぜひこちら👇から!候補作全作品レビューが載っております🐬💙 【芥川賞】https://t.co/Kvbqj9NARy 【直木賞】https://t.co/TLyI3J8nno 5ヶ月前 replyretweetfavorite

m3_myk 【】 📕cakes連載、今週は直木賞を全作品ご紹介してます! 今年は重めの社会派小説が多い印象。あなたの推しメンは見つかるでしょうか…👀✨ https://t.co/TLyI3J8nno 5ヶ月前 replyretweetfavorite