2 玉虫色のスカーフの男
神田さん、ようやくたどり着いてくれたんですよ、私が大山高校の薄井忍だってことに。タイムリミットまであと二分。神田さんは正解したって思い込んでいますから、聞きたいわけです、私に。
——あなたの恨みは何なんですか? 俺に何の恨みと憎しみがあるんですか?
ストレートに事実のみを教えてあげましたよ。
——私はあなたに対してありませんよ、恨みも憎しみも失望も。
和也君の手錠を外すよりも先に、なぜ自分がこんなことに巻き込まれたのかが気になる。まず自分が先、の人。残念。緊張から解放された人間は本性をさらす。
——じゃあ、なんでこんなことするんだ。
——あなたに教えるためです、あなたが傷つけた人のことを。
——なぜあんたがそれを俺に教える必要があるんだ。
正解したと思って、強気の空気を取り戻してきた神田さんに言ってあげました。
——反省してますか? 色んな人をあなたが傷つけてきたことを。
——反省してる。
本当に反省してたらすぐにそんな言葉は出ないと思います。きっとね、本音では誰かが勝つためには敗者が出ることは仕方ないとか思ってるはずなんです。必要な犠牲があるって。
——結局ね、人の気持ちが分からない奴が勝てるんです。そう思いませんか?
いい人と悪い人、勝つ人と負ける人がいる。悪い人の方が勝つことが多いでしょ。
——あなた、変わったでしょ? 遠慮することをやめたでしょ? 違いますか?
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。