銀河文明の一員に迎えられた人類は、その何万年か後、新たなメンバーを迎える立場になるだろう。
その時、我々は彼らに何をもたらすことができるだろうか? もし彼らがまだ、自らが作り出した気候変動や核戦争の危機に瀕していたら、我々は自らの経験と反省をもとに有益なアドバイスができるだろうか? もし彼らの経済がまだ終わりのない膨張に頼っていて、それが破裂しそうな時、我々はそれを持続可能な平衡状態へ軟着陸させる知恵を提供できるだろうか? 我々は過去の数々の過ちにもかかわらず、彼らに尊敬されうる文明になっているだろうか? 我々はただ他の先進文明に学ぶだけではなく、科学、技術、文化、芸術、哲学などにおいて、銀河文明へ貢献できているだろうか? 地球の音楽は、銀河のシンフォニー・ホールに鳴り響いているだろうか?
ホモ・アストロルムはホモ・サピエンスのことを覚えているだろうか? 翼も牙も持たぬ非力な猿が、銀河の辺境の、これといって代わり映えしない星の第三惑星の一大陸に生まれ、猛獣の陰に怯えながら恐る恐る森を出て、知性のみを武器に七大陸へと旅立った時代を。昼には空を見上げては飛ぶことに憧れ、夜には星々に神の姿を想像した時代を。非力な望遠鏡でわずかな光子を集め、それが結ぶ不明瞭な像から遠くの世界の情報を絞り出そうと頭を捻った若々しき時代を。海に憧れたイマジネーション豊かな男が、最初の異世界への旅を活写した寓話のことを。その寓話に取り憑かれた男たちが失敗を繰り返しながら空へと近づいていった古き良き時代を。たった80㎏の小さな金属のボールが地球を回り、その音に世界が興奮と不安の入り混じった感情を向けた日を。いびつな形の宇宙船に乗って初めて地球以外の世界を訪れ、一人の男が灰色の大地に「小さな一歩」を踏み出した日を。初めて隣の赤い惑星に原始的な探査機を飛ばし、送られてきた写真を興奮しながら色鉛筆でレンダリングしたことを。様々な世界に小さな探査機を送り込み、間違いを繰り返しながら無知を少しずつ克服していった時代を。火星の干上がった湖底やエウロパの雪の中に生命の痕跡を初めて見つけ、 宇宙にひとりぼっちではないことを知った日の喜びを。太陽系の果てから地球を振り返り、1ピクセルに満たない「淡く青い点」を見て、自らの傲慢を恥じた日のことを。そして自らの危機を初めて認識し、全人類が手と手を取り合ってその解決へと動き出した日のことを。
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