映画などでもっともよく見る人類滅亡の原因はおそらく、小惑星や彗星の衝突だろう。恐竜絶滅の原因も、直径10〜15㎞の小惑星の衝突だったと考えられている。
だが、向こう百年から千年のスパンで見た場合、その確率は非常に低い。百年以内に 直径5㎞以上の小惑星が地球に衝突する確率は 0.005%(二十万分の一)ほど、千年待っても二万分の一だ。
もうひとつ映画で頻繁に描かれる人類の危機は、宇宙人の侵略だ。だが、その可能性はさらに低い。もし地球外文明があるならば、ほぼ間違いなく我々より何万年も先に生まれていたという話を思い出して欲しい。もし彼らが惑星の植民地化を繰り返す欲深い宇宙人だったとして、彼らの視点に立って考えてみよう。彼らは植民地化する惑星を血眼に探している。ハビタブルな惑星の検出は現在の人類でもできるのだから、彼らは人類文明が興るはるか前から地球に気づいていただろう。ならば、その世界に核兵器を持ち地下資源を掘り荒らす種族が登場するまで侵略を待つ理由はどこにもない。地球は四十億年もの間、無防備だったのだ。四十億年起きなかった事象が向こう百年で偶然発生する確率は四千万分の一。飛行機の墜落よりはるかに低い。そして銀河には現在も無防備で未開発でハビタブルな惑星が山のようにあるだろう。地球文明がその存在を電波で発信しだした今、宇宙人が侵略対象として地球を選ぶ確率はさらに低くなっただろう。
だから、もし人類文明が向こう百年ないし千年の短期間で大幅な後退あるいは滅亡するとすれば、もっとも可能性のある原因は、人類自身の過ちだろう。
たとえば、地球温暖化が現在のペースで進行すれば、向こう百年のスケールで人類文明の脅威となることはほとんどの科学者の一致した見解である。二〇一四年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)がまとめた第五次評価報告書によれば、追加の対策が為されない場合 、二一〇〇年の地球の平均気温は一八五〇年から一九〇〇年の平均と比べ3.7℃から4.8℃上昇するだろうと予想しており、4℃の気温上昇は大規模な種の絶滅、食糧危機、およびそれに伴う人間活動への制約を高い確度で引き起こすと警告している。
核兵器も文明への大きな脅威だ。アメリカとロシアはお互いを完全に破壊できる核兵器を持ち合うという「相互確証破壊」を維持しており、核削減は牛歩の歩みである。本書執筆時点では北朝鮮が核・ミサイル実験を繰り返して緊張が高まっており、着地点は見えていない。向こう1年の間に核戦争が起きる確率はどの程度だろうか? 1%と見積もったら、それは高すぎるだろうか、低すぎるだろうか? 僕は国際政治の専門家ではないのでわからないが、仮に1%としてみよう。そして、あらゆる核拡散のリスクにかかわらず、この確率は一定に保たれると仮定しよう。すると、向こう百年で核戦争が起きる確率は64%、三百年では95%、千年では99.995%である。
増大し続けるエネルギー消費もリスクだ。自然エネルギー発電に切り替えれば解決すると思われるかもしれないが、長期的にはそうではない。
一九六五年から二〇一五年までの間に世界のエネルギー消費は平均して年2.4%ずつ増えた。二〇〇〇年以降に限っても年2.2%ずつ伸びているでは、もし仮に、エネルギー消費がこのまま毎年2.2%ずつ増え続けたらどうなるか
もし地球の陸地全てを、街から森から砂漠まで少しの土地も余すことなく効率20%の太陽電池で覆っても、毎年2.2%ずつエネルギー消費が伸び続ければ、約300年後には足りなくなる。効率100%の架空の太陽電池で陸だけではなく海も覆っても75年しか延命できない。自然エネルギーへの転換は一時的な解決策でしかない。エネルギー消費の増大を止めなければ長期的には人類文明は必ず行き詰まる。
ならば核融合や宇宙太陽光発電所を使えばいいという人もいるかもしれないが、別の問題がある。使ったエネルギーは必ず熱として排出されることだ。そのため約500年後には地表の温度が100℃に達する。
もちろん、その頃には人類は太陽系の隅々に植民しているだろう。それでも、毎年2.2%ずつエネルギー消費が増え続ければ、約1400年後には太陽が放出するすべてのエネルギーを使わなくてはならない。SF好きの人にはおなじみの、太陽をすっぽり覆って全エネルギーを利用する「ダイソン球」を建設しても、わずか1400年で人類は太陽の全エネルギーを使い尽くす。
さらにそのままエネルギー消費が増え続ければ、約2500年後には銀河すべての星のエネルギーが必要になる。一千億のダイソン球が一千億の星を覆い隠し、銀河から光が失われる。
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