星がたくさんあることはわかった。では、生命の存在に適した惑星はどの程度存在するか? それを知るために打ち上げられたのが、NASAのケプラー宇宙望遠鏡である。マーシーはこの計画の共同研究者として加わった。
ケプラー宇宙望遠鏡は低予算ミッションで、ハッブル宇宙望遠鏡と比べると随分と小ぶりである。主鏡の面積はハッブルの三分の一。望遠鏡の重さは十分の一以下だ。汎用的なハッブルに対し、ケプラー宇宙望遠鏡の目的は系外惑星探査のただ一つ。この小さな望遠鏡が目覚ましい成果をあげた秘密は、その特殊な観測方法にある。
先に説明したように、それまでは星の「ふらつき」を検出するRV法が主に用いられてきた。ケプラー望遠鏡は星のわずかな「またたき」を捉えることで惑星を検出する。
ケプラー宇宙望遠鏡(Credit: NASA/JPLCaltech)
この手法は「トランジット法」と呼ばれる。原理は簡単だ。ある星をじっと見る。瞬きせずに何年間も見続ける。もしその星に惑星があり、運がよければ、その惑星がちょうど星と地球の間に入り星の一部を隠す。これを「トランジット」と呼ぶ。トランジットの瞬間、星の明るさがほんのわずかだけ暗くなる。そのわずかな減光を捉えることで、惑星を間接的に発見するのである。
ケプラー望遠鏡は24時間、はくちょう座の右の翼の方向へ向けられた。そして、織姫が彦星に逢いに行くために渡った天の川の一角の65,000個の星を、瞬きせずにじっと見続けた。
ケプラー望遠鏡が実際に打ち上がるまでは、どれほどの数の惑星が見つかるかわからなかった。ところが蓋を開けてみるとざくざく見つかった。ゴールドラッシュのようだった。掘れば掘るだけ金がでる金鉱だった。
二〇一七年十二月現在、ケプラー宇宙望遠鏡が発見した惑星の数は2526に上る。そのうち30が、ハビタブルゾーの中にある地球の2倍以下のサイズの惑星である。それまで数百だった系外惑星の数は、たった一機の低予算の宇宙望遠鏡によって数千のレベルまで一気に増えたのである!
しかも、思い出してほしい。ケプラー望遠鏡が観測したのは、はくちょう座のほんの一角にすぎない。そして地球のような軌道の惑星が運良くトランジットを起こす確率は約200分の1だ。それにもかかわらず数千もの惑星が見つかったのである。これを元に推定すると、銀河には数千億個の惑星がある計算になるのだ!
「千億」 という数字がどれだけ大きいか、想像できるだろうか? たとえば、あなたの家の風呂桶をピンポン球でいっぱいにしてみよう。必要なピンポン球は約5千だ。では、25メートルプールをいっぱいにしてみよう。それでもまだ8百万個だ。ならば、東京ドームを天井までピンポン球でいっぱいにしたらどうだろう。それでも270億個だ。銀河にある惑星の数とは、四大ドームをすべていっぱいにするピンポン球の数くらいだ。
そして、これは我々が住む一つの銀河系に存在する惑星の数である。宇宙には数千億の銀河があるといわれている。千億の千億倍の世界。あなたは想像できるだろうか?
ケプラーの発見の偉大さは数だけではない。イマジネーションを刺激する、バラエティーに富んだ世界の数々が見つかったことだ。いくつか例を挙げよう。
ケプラー452bは地球に非常に良く似た惑星だ。1400光年先にある。直径は地球の1.6倍。一年は385日。太陽と良く似た星を回っている。ちなみに「ケプラー452」という機械的な名は、ケプラー宇宙望遠鏡が452番目に惑星の存在を発見した星、という意味である。川を流れる水の水分子ひとつひとつに名がないように、天の川を成す無数の星屑のほとんどは、名も、記号すらも持たない。
ケプラー16bは200光年の距離にある、土星サイズの惑星だ。この世界の空には二つの太陽が輝いている。朝には二つの朝日が昇り、夕方には二つの夕日が沈む
1200光年離れたケプラー62星系からは五つの惑星が発見されている。その最も外側の二つの惑星、ケプラー62eとケプラー62fはハビタブル・ゾーンにある。もしその両方に生命が誕生していたら……そして文明が生まれていたら……。先に宇宙を渡る船を造った文明が、もう一方を訪れる。それは征服欲に駆られた植民地化であろうか、それとも知的好奇心に駆られた科学探査だろうか。
系外惑星ケプラー62f の想像図。この惑星はハビタブルゾーンの中にある。
Credit: NASA Ames/JPL-Caltech
二〇一三年、ケプラー宇宙望遠鏡の四つの姿勢制御ホイールのうち二つが故障し、メインミッションを終えた。だが、残された機能を用いて現在も観測を続けており、ペースは落ちたが惑星の発見は続いている。
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