ペガサス座51番星b

「私」はどこからきたのか?1969年7月20日。人類がはじめて月面を歩いてから50年。宇宙の謎はどこまで解き明かされたのでしょうか。本書は、NASAの中核研究機関・JPLジェット推進研究所で火星探査ロボット開発をリードしている著者による、宇宙探査の最前線。「悪魔」に魂を売った天才技術者。アポロ計画を陰から支えた無名の女性プログラマー。太陽系探査の驚くべき発見。そして、永遠の問い「我々はどこからきたのか」への答え──。宇宙開発最前線で活躍する著者だからこそ書けたイメジネーションあふれる渾身の書き下ろし!人気コミック『宇宙兄弟』の公式HPで連載をもち、監修協力を務め、NASAジェット推進研究所で技術開発に従事する研究者 小野雅裕がひも解く、宇宙への旅。 小野雅裕の書籍『宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─』を特別公開します。


ニュースは突然やってきた。マーシーとバトラーが夜空を探し始めてから八年後の一九九五年。ペガサス座51番星という、目立たぬため名を与えられず番号で呼ばれている星に、系外惑星が存在していることをスイスのチームが発見したのである。それまでパルサーと呼ばれる星の死骸に惑星が見つかったことはあったが、太陽のように一般的な星(主系列星)で見つかったのは世界初だったこの惑星には「ペガサス座51番星b」という、発見の歴史的重大さに不釣り合いなほど無機質な記号が割り振られた。ペガサス座51番星系の二番目の天体だから、お尻にbを足しただけである。

ニュースを聞いて愕然としたマーシーとバトラーは、慌てて望遠鏡をペガサス座51番星に向けた。そしてたった数日のうちに彼らは星の「ふらつき」を確認した。さらに彼らの過去のデータを再検証したところ、二つの同様の系外惑星が隠れていたのである!

望遠鏡や検出器の性能が足りないわけではなかった。運悪く惑星を持つ星に望遠鏡を向けそびれたわけでもなかった。彼らの望遠鏡は確かに、世界で最初に系外惑星がもたらす「ふらつき」を捉えていた。ただ単に、データの中に埋もれた系外惑星のサインに気づかなかっただけなのだ。彼らの悔しさはどれほどのものだっただろうか……。

マーシーとバトラーの見逃しの原因は単なる不注意ではなかった。ペガサス座51番星bが、常識をはるかに超えていたからだった。

ペガサス座51番星bは木星の半分ほどの質量を持つ巨大惑星だが、中心の星からわずか0.05天文単位(1天文単位は太陽から地球までの距離)の距離を、4.2日の周期で公転していた。信じられるだろうか。たった4日周期で狂ったように太陽をまわる巨大惑星を……。太陽系ではもっとも公転周期が短い水星ですら88日だ。まさか一年が4日しかない世界があるとは。しかもそれが木星ほど巨大な惑星だとは。異常なのは公転周期の短さだけではない。中心の星にあまりに近いため、その表面温度は1000℃を超えると見積もられた。

マーシーとバトラーの過去のデータに埋もれていた二番目、三番目の系外惑星も、同様に星のすぐ近くをまわる巨大惑星だった。このタイプの惑星は、「熱い木星」を意味するホット・ジュピターと呼ばれるようになった。


ペガサス座 51 番星 b の想像図。Credit: ESO/M. Kornmesser/Nick Risinger (skysu RV ey.org)

ホット・ジュピターは巨大惑星が近くから星をぶんぶんと振り回すので検出がもっとも容易である。だが、マーシーとバトラーはたった数日で公転する惑星を全く想像していなかった。もっと長い周期の「ふらつき」ばかりをデータから探していた。知らぬうちに太陽系の常識に縛られていた。だから見逃した。スイスのチームが先を越したのは、大きな望遠鏡を持っていたからでも、観測機器の精度が良かったからでも、運が良かったからでもない。彼らの方が、イマジネーションの幅が少しだけ広かったからだ。

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宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─

小野雅裕

銀河系には約1000億個もの惑星が存在すると言われています。そのうち人類が歩いた惑星は地球のただひとつ。無人探査機が近くを通り過ぎただけのものを含めても、8個しかありません。人類の宇宙への旅は、まだ始まったばかりなのです…。 NASA...もっと読む

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