「ユウカさん実は……今日関西に戻るっていう内示が出たんだ。ユウカさん、どうする?」
人生には、ただ決断だけを求められる瞬間がある。
きっと、時間が経てば正解はわかるんだろうけど、大体の場合は正解を探す時間も用意されていない。
ユウカは池崎の「どうする?」という言葉に無責任さと戸惑いと悔恨を感じたけれど、
いまの池崎とユウカの距離を現すにはふさわしい言葉だった。
自分の気持ちを即答できないユウカは、咄嗟に
「池崎はどうしてほしい?」
と相手にボールを投げた。
「僕は……ユウカさんが思うようにしたらいいと思ってるよ」
池崎からのボールはあっさり返ってきた。
「なにそれ。大阪に行くってなったら……そのあと結婚するってことだよね?」
また、違うボールを投げる。
「え? それは違うよ。ユウカさんが大阪に来てくれるのはいいけど、とりあえずは住む場所も一緒じゃない方がいいと思ってる」
池崎からは予想外のボールが返ってくる。
「どういうこと?」
「少し距離を置きたいんだ。別れるとかじゃないよ。でも……同棲するのはひとまずやめたい」
「え? それ、私が大阪に行く意味あるの?」
「恋人だから意味はあると思うけど……」
(なにそれ。いま高畑と揺れているから距離を置きたいってこと? 本当に好きなら、今こそ逆に距離を詰めてくるもんじゃないの……?)
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