水族館のアナゴ
先日、例年より20日以上も早く関東地方は梅雨明けを迎えてしまいました。
さっそく照り付ける真夏の日差し、そして吹き荒れる熱風に、早くも夏バテ気味の人も多いのではないでしょうか。
こういう時に食べたくなるのが、やはり長物の魚たち。
絶滅危惧種となってしまったウナギはしばらく食べるのを控えるとしても、ほかにもアナゴ、ハモ、あるいはウツボなども美味しい長物魚です。
開いてかば焼きにするもよし、湯引きにして梅肉で食べるもよし。栄養価たっぷりで味もよく、ビタミンB豊富なこれらの魚で夏を乗り切るのは、日本の古からの素晴らしい知恵だといえるでしょう。
さて、これらの魚ですが、日本人に深く愛されてきている魚たちであるにもかかわらず、刺身で食べられることがあまりありません。
これってよく考えたらちょっと不思議じゃありませんか? 美味しいとなれば危険を顧みず、鶏肉でも豚肉でも刺身で賞味してしまう我々日本人が、美味しいとわかっている魚を刺身にしないなんて……
でも、これにはちゃんと理由があるのです。
ウナギの仲間の最終兵器「血清毒」
長物の魚は、その多くが「ウナギ目」というグループに含まれます。
代表種のウナギをはじめ、アナゴやハモなどかなりの種類が含まれる大きなグループになります。
こういう体形の魚たち
これらの魚には「細長く、体表が強いヌメリに覆われている」という外見上の特徴があるのですが、それとは別にとあるユニークな性質を持っています。
それは「血液に毒を持つ」というもの。
この毒成分は血清毒と呼ばれるもののひとつで、特にウナギに多く含まれていることが知られていますが、アナゴやウツボにも同様のリスクがあると見られています。
この血清毒、実はかなり強い毒性があり、摂取すると嘔吐・下痢などの消化器官の症状や呼吸困難を引き起こし、ときに死に至ることもあります。成人男性における致死量は、血液換算でだいたい1リットル程度とされています。さすがにウナギの血を1リットル飲もうなんて猛者はそうそういないと思いますが(しないでね)ある程度まとまった量を摂取してしまうとひどい目にあうのは間違いありません。
またこの血清毒はヌメリにも含まれており、さばいている途中にヌメリが口や目、傷口に入るとひどく痛みます。
昔、とあるバラエティ番組でウナギが大量にニョロニョロしている水槽の中を、水着のお姉さんが四苦八苦しながら移動するというシーンを見たことがあります。あのシーンは僕の性癖に暗い影を落としたのですが、それはそれとしてあのような行為は各種粘膜に非常に強いダメージを与えるので、現代社会ではコンプライアンスに引っかかりBPO 案件となるでしょう。
それほど危険な血清毒ですが、その主要成分はタンパク質。つまり加熱に対して非常に弱い性質を持ちます。ウナギの血清毒の場合、60℃で5分以上加熱することによって、変質させ無毒にすることができます。だから通常の加熱調理を施せば、安全に食べることができるのです。
ご家庭でウナギやアナゴを生から調理されるような方は、当連載の読者の中にはあまりいらっしゃらないかもしれませんが、もしされる場合には十二分に加熱することを心がけてください。血清毒を舐めてはいけません!
それでも刺身で食べたいアナゴ
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。