母親に30年ぶりに会ったら、出刃包丁を3本持ってた

『死にたい夜に限って』を上梓した爪切男さんと、「死にたい夜を越えていく」と『笑いのカイブツ』で掲げたツチヤタカユキさんが、出会いました。笑いや女性に助けられた二人が、死にたい夜を生き延びることについて語ります。

6000冊の中で愛情が一番あった

爪切男(以下、爪) 今日はよろしくお願いします。『ケータイ大喜利』を見たりラジオを聞いていた人からしたらツチヤタカユキさんの名前を知らない人はいないと思います。今日はお会いできて光栄です。ツチヤさん、なんか身体からにじみ出るオーラありますね。

ツチヤタカユキ(以下、ツチヤ) ありますか?

 ありますね。僕はツチヤさんをはじめとするハガキ職人の方によく助けられてました。こんなにくだらなくておもしろいことを考える奴がいるんだなあと思うと、しんどい時にちょっと救われますからね。

ツチヤ 爪さんも大喜利作ったりラジオに投稿したりしてたんですか?

 僕が一時期投稿していたのはJ−WAVEの別所哲也の生放送のラジオで、別所哲也を笑わすことだけに命をかけてましたね(笑)。

ツチヤ 狭いところにボールを投げてたんですね(笑)。

 『ケータイ大喜利』に自分の作品を送ったことはあるんですけど全然採用されませんでした。ネット大喜利もやってたんですけど、暇つぶし程度にしかやってませんでした。その道を極めようとしたツチヤさんはすごいなと思っています。

ツチヤ 僕の方こそ、今日はお会いできて光栄です。爪さんの『死にたい夜にかぎって』読ませていただいたんですけど、出し惜しみみたいなことを一切していなくて、読者に対してサービス精神があるなと思いました。小説は昨年1年で6000冊読んでるんですけど、その中でも1番サービス精神のある小説でした。

 ありがとうございます。

ツチヤ 愛情が半端ないですよね。愛情たっぷりな人だったら愛情たっぷりの小説になるし、頭おかしいやつだったら頭おかしい小説になるんじゃないかなって僕は思ってて。きっと爪さんは愛情たっぷりの人だから、こういうものが書けるんかなって。

 ツチヤさんの本は?

ツチヤ 頭おかしいから頭おかしい小説に(笑)。

 そんなことはないですよ。僕は『笑いのカイブツ』読んでてうれしくなりました。こういう小説を書く人が、ちゃんと投稿の世界で一番になってくれててよかったなと思って。すげえ適当な感じでやってる人が、センスとかだけで一位になってたら嫌ですからね。才能もあった上で努力している人が一位になってるんだというのを、小説を読んで感じました。それがうれしくなりました。


コミックス『笑いのカイブツ』より

アスファルトの上に彼女をパイルドライバーしたこと

ツチヤ 『死にたい夜にかぎって』を読んでて、「すべらない話」みたいなのを紙の上でやってるような感じがしました。

 そうですね、苦い記憶とかを覚えておくのが性格上無理で。最終的に全部笑い話にしてます。

ツチヤ 彼女さんに笑える話にしてねってお願いされたんですよね。

 実際はもっと酷い話もありましたからね。アスカと恵比寿の路上で早朝から殴り合いした話とか。

ツチヤ あははは。

 アスカがいきなり仕事場に遊びに来たことがあったんです。彼女の心の病がひどい時期で、家で一人でいられなくなって俺に無理やり会いに来たと。そしたらくそまずい下手くそなクッキーを職場のみんなに差し入れに持ってきた。それを配っている様子が、オカンがいらんことをしに職場にやってきたような恥ずかしさがあって本当に嫌だった。
 俺も借金とかアスカの看病とかで精神的に参っていたので、そのことが原因で家に帰っている途中に路上で口論になりました。そしたらアスカがハイヒールの踵で思いっきり俺の頭を殴ってきて、取っ組み合いの大喧嘩です。

ツチヤ うわ......。

 僕もひどかったですよ。女の子をアスファルトの上にパイルドライバーしようとしたし。

ツチヤ 流血するじゃないですか。

 アスカが「やれるもんならやってみろ。好きな女の頭アスファルトに叩きつけれんのかおまえ」って言うから、こっちもハイヒールで殴られて頭から血が出てるし「全然やれるよ」って言って、パイルドライバーの体勢に入ったと。本当に叩きつけたりはしないです。小学生のじゃれ合いみたいな感じでその場に二人で倒れ込みました。

ツチヤ 男と男みたいですね。

 「本当にやると思わなかった」ってアスカも笑い出して(笑)。それで仲直りの抱擁でした。ツチヤさんの『笑いのカイブツ』は、ありのままを書いてますよね。

ツチヤ そうですね。

 そこが凄いと思いました。僕はしんどい話も笑い話にしようっていうことを意識するんですけど、ツチヤさんはありのまま書いてるのが本当の青春だなっていう感じがして。

ツチヤ ありのままあったことを笑いに変えようとはしていないですけど、エンタメにしようというので七転八倒しました。見せ方とか、表現とか。

 話の中に出てくるツチヤさんの初めての彼女の「アナタ」って、素晴らしい女性だったんですね。

ツチヤ 本当にそうでした。僕は一人の女性に助けられたけど、爪さんはたくさんの女性に助けられていますよね。

 すべての女性に感謝しています。でも俺の場合はある意味異種格闘技戦ですからね。初体験は車いすの女性、初めての彼女は変な宗教にハマってました。それでアスカ。クリスマスはイルミネーションを見に行くとか、夏は一緒に海を行くとかそういう恋愛をまだしたことがないんですよ。あんまり憧れはないけど。ツチヤさんは最初の彼女が最高の女性だったんですね。

ツチヤ まあ、たった一人ですからね。

 ツチヤさんの恋の話を読んでいて羨ましくなりました。他人の恋はよく見えてしまいます。あと、ツチヤさんのそばに常にいた笑いのカイブツが死んでいくところがすごい美しいと思いました。カイブツ、本当に死にました? 蘇ったりはしていないですか?

ツチヤ 死にました。

脱童貞の思い出

 ツチヤさんも俺も素敵な童貞の捨て方してますよね。俺は『死にたい夜にかぎって』にも書いたんですが車いすの可愛い女性でした。色々あった初体験でしたけど。

ツチヤ 結果おもしろくなってるじゃないですか。自分もいつかネタにしたろうっていうのは、ずっと思ってました。だからホストクラブで働いたりとか。

 自分の場合は、初体験の彼女が一生ついてまわってます。街中で車いすの人見るたびに絶対思い出します。自分の初体験の思い出が一気に蘇ります。初体験をしてから、彼女のこと思い出さなかった日はないです。

ツチヤ マジで1日も?

 生活のふとした瞬間に思い出します。あと、ゆずを見る度に思い出します。

ツチヤ 音楽の。

 ゆずの『夏色』って曲が初体験の思い出の曲なんです。でも、これは幸せなことかもしれないですね。1日1回思い出すのは、車いすの彼女と僕が尊敬するプロレスラーの武藤敬司なので。多分二人のことが好きすぎるんですよ。朝起きたらまず武藤さんのこと思うんですよね、武藤さん膝悪いから、大丈夫かな今日、朝から冷え込んでるしとか。

ツチヤ (笑)。

 逆に言うと、車いすの彼女とプロレス、武藤敬司という絶対的存在があることが恋をする上で問題なのかもしれないです。どんな女性と恋をしても、その子が一位になることがないので。

ツチヤ アスカさんはそれを分かってたんですか?

 アスカはそれをわかってる子でした。だから長く続いたのかな。まあアスカの中でも俺が1位ではなかったと思います。彼女にとっての1位は音楽だったんじゃないですかね。でも、恋人はお互いがお互いにとっての1位である必要はないんじゃないかなとも思います。

母親がアマゾンレビューで星5つをつけてくれた

 僕が女性を必要以上に求めてしまうのって、たぶん母親がいなかったからなんですよ。ツチヤさんはお母さんと今は仲いいですか?

ツチヤ 仲いいです。

 そうなんですね。うちは30年以上生き別れでしたから。もう会うことはないと思ってたんでよくネタにしてました。ある時、個人ブログを開設したんですけど、その時に「〇〇〇〇(母親の実名)を探しています」というブログ名にしたんです。そうしたら、ブログ開設から三ヶ月ぐらいで再会してしまった。

ツチヤ 早い……!

 非公開コメントに「私があなたのお母さんだと思います。」って書いてて。マジかよって思いながら、こちらから5、6問ぐらい母親じゃないと分からない質問を作って返信したんですよ。1個はひっかけ問題も入れたんですけど、すべて正解で。それで実際に会ったみたら、本当に母親でした。

ツチヤ すごいですね。これはお母さんお読みになってるんですか?

 読んでます。アマゾンレビューも書いてます。

ツチヤ えー! どんなレビューなんですか?

 いきなり、LINEで「お前の本にアマゾンで星1つのレビューが付いてるぞ」ってそのレビューをスクリーンショットで送ってきたんです。嫌なことするなあと思っていたら、その後に星5つのレビューのスクリーンショットが送られてきて、なんだこれって思ったら、「このレビューは私です」って。5つ星のレビューを書いてくれて、星1つレビューを相殺しようとしてくれたらしくて(笑)。

ツチヤ いい話!

 いい話なんですけど、再会した時は俺の事殺そうとしたんですよ。小説には書いてないんですけど。

ツチヤ え。

 ホテルで30年ぶりに待ち合わせたら、大黒摩季みたいなウェーブヘアーの母親と、母方のおばあちゃんがいました。俺からしたらどっちも知らない人ですけど、向こうはワーと抱きついてきましたね。これはひどいことかもしれないですけど、なんだよ、母さん、女性として全然いけるなと思いながら、めちゃくちゃ抱きしめましたね。

ツチヤ 異性として。

 そう、異性として抱きついてた。母親は「よかったいい子で」って言ってましたけどね。でも、俺がダメな子供だったら殺すつもりだったみたいです。ボストンバッグの中に出刃包丁三本持ってきてましたし。

ツチヤ けじめみたいなことなんですかね。

 「30年間別れて暮らしてて、俺が悪い子に育ってたら天誅を下す」みたいな、そういうことを言ってましたね。
 でも、うれしかったです。おばあちゃんと俺と母親、ちゃんと一人一本ずつ出刃包丁用意してくれてたんで。「どんな犬畜生でも人一人殺すには一本の刀を用意してやるのが最大の礼儀」みたいなことを昔の映画で聞いたことありました。いわゆる武士道ですよね。武士道を分かっている母親の息子で良かったなって。そこから母親とはずっと仲良くやってますね。

ツチヤ そこから仲良くやれるんですね(笑)。

次回「爪切男がツチヤタカユキに教える女を口説くテク」につづく

構成:大森紗羅


コミック『笑いのカイブツ』史群アル仙・ツチヤタカユキ


『死にたい夜にかぎって』爪切男


『オカンといっしょ』ツチヤタカユキ

この連載について

死にたい夜に会いましょう」ツチヤタカユキ×爪切男

爪切男 /ツチヤタカユキ

『死にたい夜に限って』を上梓した爪切男さんと、「死にたい夜を越えていく」と『笑いのカイブツ』で掲げたツチヤタカユキさんが、出会いました。笑いや女性に助けられた二人が、死にたい夜を生き延びることについて語ります。

関連記事

関連キーワード

コメント

0pus https://t.co/g1kTdaqa0i 約1年前 replyretweetfavorite

kouen_girls 爪さんxツチヤさん…!?!?!?? 約1年前 replyretweetfavorite