人を殺す理由

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたい」
世界一売りづらい「殺し」を売るための会社作りに奮闘する女子大生、桐生七海の師匠であり、「最強のマーケティング技巧」を持つ西城が銃弾に倒れた。師匠を失った七海を取り巻くようにさらなる事件が起こり、そして物語は衝撃のラストへ――。今話題の書店経営者が初めて書く新しいマーケティング&エンタメ小説、第49回。

「藤野楓を殺すように涼に依頼したのは、藤野楓本人だった」

「どういうこと……」

あまりのことで、頭が追いついてこなかった。

「藤野は町おこしコンサルタント岩井の妻の顔を山村詩織の顔にしていたんだ。それが我々に見つかり、自分がイレーザーであることが露見しそうになっていた」

そういうことだったのか、と七海はあの日のことを思い出す。藤野楓は死ぬ直前、七海に何度も謝っていた。そして、こうも言っていた。

—あの子にどうしても会いたくて。

それが、山村詩織のことだったのだ。

「彼女は医師で、自白剤の恐怖をよく知っていた。我々に捕まり、自分が顔を変えた人の名前を全部言ってしまう前に、自分を消してしまえば多くの人を救えると考えた。それで、自分を殺してくれと涼に依頼した」

「でも、だったら藤野先生はどうして私に—」

「相談したとしたら、七海は彼女を救おうとしただろう?」

ふと、西城の言葉を思い出した。

—七海、僕を助けようとするな。

理由は、明白だった。助ければ七海に危険が及ぶから。西城と同じように藤野が考えたとしてもおかしくない。

「じゃあ、涼は……」

「彼女の想いに応えたんだろう。一番、難しい役回りを引き受けたのが、涼だった。涼は私に取引を持ちかけてきたんだよ」

「取引?」

「すべて、自分が一人で被る。自分にすべての罪を着せて、殺してくれと。そうすれば、あなたの娘に危害は及ばないだろうと」

「そんな……。でも、どうして? 涼は人を殺すのに理由なんて求めたりはしない」

もう動かなくなった、涼の顔を涙で濡れる目で見つめながら、まるで涼に語りかけるように七海は言った。  
代わりに答えたのは父だった。

「だから、涼は、初めて七海という理由を持ったんだよ」

「え……」

七海は父の顔を見上げ、そして、穏やかに眠る涼の顔を見る。  
南池袋公園の光の下で会ったときのことを七海は思い出す。

—あなたがいるでしょう? ねえ、涼、あなたが私を助けてよ。

そうか、とあのとき涼は、なぜか晴れやかな表情をしてつぶやくようにこう言った。

—僕が七海を、助ければいいのか。

何を思い、そう言っていたのか、その当時の七海にはわからなかった。  
でも、今ならわかる。  
あのとき、涼はすべてを悟ったのだ。  
自分一人が罪を被れば七海が救われることを、あのとき、気づいてしまったのだ。

あのとき、七海が見た涙は、幻ではなかった。  
すべては、七海のためだった。

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殺し屋のマーケティング

三浦崇典

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」 女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強...もっと読む

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