対峙する二人

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたい」
世界一売りづらい「殺し」を売るための会社作りに奮闘する女子大生、桐生七海の師匠であり、「最強のマーケティング技巧」を持つ西城が銃弾に倒れた。師匠を失った七海を取り巻くようにさらなる事件が起こり、そして物語は衝撃のラストへ――。今話題の書店経営者が初めて書く新しいマーケティング&エンタメ小説、第47回。

「だから、僕はジャーナリストをやめるんだって!」

秋山明良は、ヘリコプターのプロペラが巻き起こす風に負けじと声を張り上げるが、相川響妃には聞こえないようだった。

「え? 聞こえない! いいから、早く乗ってよ! すぐに飛び立つから!」

「僕は、ジャーナリストをやめるんだよ! もう、こういうのも嫌なんだ!」

これは響妃に届いたようだった。けれども、響妃は本気にしていないようで、薄っすらと笑った。

「明良君、いいから、乗りなさい! あなたの大好きな桐生七海のところに行くんだから!」

「へ?」  

怯んだ瞬間に、秋山は響妃に腕を摑まれ、また、ディレクターの桶川がわとカメラマンに背中を押され、ヘリコプターの中に押し込まれた。


すぐに、「相川アイズ」の取材班を乗せたヘリが本社ビルの屋上を飛び立った。  
飛んでから、秋山は思い出したことがあった。

「おおい、おい、おい! 僕は高いところがダメなんだよ! おおい、おい、おい! 降ろして! 頼むから降ろして!」

取材班はそれを見て、プロペラ音の中で笑っていた。

東京上空は、少し、霞がかっていたが、黄昏前の西から陽が差し込み、美しく映えた。地面に這いつくばって暮らしていると、この世界有数のメガロポリスに暮らしていることを忘れてしまうが、上空から見ると、改めて恐ろしい街に住んでいることを痛感するのだ。何が恐ろしいのかといえば、やはり、人の数だった。この人の数だけ、欲求があり、それが渦巻き、日夜衝突しているのだと思うと、何か、秋山はやるせなかった。

「ところで、本当に桐生七海のところに行くの? 警察の厳重な警護を受けているってテレビで言ってなかった?」

眼下に、皇居が見えた。その横の警視庁に保護されているのではないかと秋山は思っていたのだ。ここから見ても、周りに中継車が集まっているのがわかる。

けれども、響妃は違っていた。空を飛び、陽の沈むほうへと向かっていた。

「あの洋館に行くのよ」

「桐生家の洋館? あそこに桐生七海がいるの? 情報があるの?」

「情報はないけど、私の直感がそう言っている。たぶん、警察はメディアを騙そうとしているんだと思う! やるとすれば、封鎖しやすいあの洋館よ」

秋山は洋館へ至る道を思い出す。  
たしかに、響妃の言うとおりだった。あの洋館に至る道は一本しかない。しかも、雑木林で囲まれていて、周囲からは見えない。南側は湖でそこからは船でないと侵入もできない。何か、隠れてやるとすれば、あれ以上の場所はない。  
その現場に乗り付けるには、ヘリコプターしかなかった。洋館の広い庭園になら、ヘリコプターは余裕で着陸できそうだった。

「あそこで、何が起きてるの?」

わからない、と響妃は髪を振り乱すようにして、首を横に振る。

「でも、必ずあそこで何かをしようとしている人たちがいる。それをカメラで押さえるのよ」

秋山は急に、まるでベトナム戦争においてヘリコプターで戦地に乗り込むアメリカ兵のような心境になった。

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殺し屋のマーケティング

三浦崇典

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」 女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強...もっと読む

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