●第二次怪獣ブーム
一九七一年四月スタートの『帰ってきたウルトラマン』の成功で、半年が過ぎた一一月二八日から、かつて『ウルトラマン』を放映していたTBS系列の日曜夜七時の「タケダアワー」枠で、『シルバー仮面』が始まった。タケダアワーは『柔道一直線』が当たり二年にわたり放映された後、七一年四月から一一月までは同じスポ根ものの『ガッツジュン』(原作・神保史郎、作画・小畑しゅんじ)が放映されていたが、再び特撮ものになったのだ。
しかし『シルバー仮面』は円谷プロダクションではなく、同社を退社したスタッフを中心にして作られた「日本現代企画」の制作だった。特撮ものだが、ウルトラマンのように巨大ヒーローではなく、仮面ライダーのような等身大ヒーローだった。
『シルバー仮面』は視聴率がふるわず、第一一回からタイトルが『シルバー仮面ジャイアント』となり巨大ヒーローものに転換した。これにより視聴率も上向いたが、翌七二年五月で終了する。当初から半年二六回の予定だったので、打ち切られたわけではないが、延長もされなかったのだ。
『シルバー仮面』が低視聴率だったのは、第二回が放映された一二月五日から同時間帯にフジテレビ系列で、円谷プロダクション制作の『ミラーマン』が放映されていたからである。『帰ってきたウルトラマン』と『仮面ライダー』のヒットで、世に言う第二次怪獣ブームが起きたおかげで、円谷プロも息を吹き返し、同時に二本の巨大ヒーローものを制作していたのだ。
当時は家庭用VTRなどなかったから、日曜夜七時に『シルバー仮面』と『ミラーマン』のどちらを見るかは、小学生男子にとって最大の悩みとなった。僕も悩み、一一月二八日は当然、『シルバー仮面』の第一回を見たが、翌週一二月五日は『ミラーマン』の第一回を見て、結局、巨大ヒーローものである『ミラーマン』を選択した。しかし、『ミラーマン』は主題歌を歌えるわけではないので、そんなに熱心には見ていなかったのだろう。
『シルバー仮面』は七二年五月で終了したが、『ミラーマン』は一一月まで一年にわたり放映された。『シルバー仮面』は初回と第二回を実相寺昭雄が監督したこともあり、その後、カルト的な人気を得る。
●ウルトラ兄弟への疑問
『帰ってきたウルトラマン』が一九七二年三月三一日に高視聴率で終わると、翌週四月七日からは『ウルトラマンA』が始まった。何週間か前から予告されていたが、そのときは「ウルトラA」というタイトルだったのに、始まると、「ウルトラマンA」になっていたので、混乱した。あとになって、玩具メーカーが「ウルトラエース」という商品を発売していたために変更したと分かる。
「ウルトラマンA」としたことで、以後のタイトルとヒーロー名を「ウルトラマン◯◯」とできるようになったので、怪我の功名と言える。
さらに「マン」がつかないのは、「ウルトラセブン」だけになったので、「セブンは特別」という感じにもなり、『ウルトラセブン』が高い評価を得るのにも役立っている。
『ウルトラマンA』は、『帰ってきたウルトラマン』で描かれた世界をまたもリセットし、まったく別の世界での物語となる。
ウルトラマンAが戦う相手は怪獣ではなく「超獣」で、それを倒すための人間側の組織は、超獣攻撃隊TAC(Terrible-monster Attacking Crew)という。
ウルトラマンAに変身するのは、当初は北斗星司と南夕子で、二人が合体して変身するというのが新しかった。しかし、南夕子は第二八話で旅立ち、以後は北斗だけで変身する。
途中で設定が変わっていくのはウルトラ・シリーズに限らず連続ドラマの宿命である。
『ウルトラマンA』が放映されていたのは僕が小学六年生の年だ。見ていたが、そんなには熱心ではなかったと思う。生意気な小六は「ウルトラマンなんて子供が見るものだ」と思っていたのだ。
それでも、『帰ってきたウルトラマン』で感じた過去作品との矛盾にはこだわらず、「ウルトラ兄弟」の設定も受け入れ、「ウルトラの父」が登場すると、そうきたかと楽しんでいた。
『ウルトラマンA』第一回の視聴率は『帰ってきたウルトラマン』の勢いを引き継いで二八・八パーセントだったが、翌週は二二・六パーセントに下がり、以後は二〇パーセントを割ってしまう。折返しにあたる一〇月六日の第二七話「奇跡!ウルトラの父」は二六・三パーセントと上昇し、以後しばらくは二〇パーセント台をキープするが、一九七三年になると、二〇パーセントを回復できず、最終回も一九・一パーセントで、平均一八・六パーセントだった。
●ウルトラ・ファミリー誕生
それでもシリーズとして続くことになり、一九七三年四月からは『ウルトラマンT』が始まった。いままでのウルトラマンたちは五兄弟といいながらも、実際の兄弟ではなく、ウルトラの父も彼らの上司に過ぎないのだが、ウルトラマンタロウは、ウルトラの父とウルトラの母の実子という設定だった。
ウルトラの父も母も、ウルトラマンに似ているのに、タロウはウルトラセブンに似ていて、遺伝学的におかしいのだが、M78星雲の人びとは地球人とは違うのだろうと、納得するしかない。
怪獣と戦う人間側は、宇宙科学警備隊ZAT(Zariba of All Terrestrial=「地球全領土の防護柵」という意味)となる。ウルトラマン側はどうやらひとつの世界観にあるようだが、地球側の世界観は、またもリセットされたのだ。
僕はすでに中学生となっているので、そういう設定にも、「なるほど、そうきたか」と思うだけで衝撃も感動もなく、むしろ、いろいろ考えるもんだと感心していた。冷淡ではあったが、それでも『ウルトラマンタロウ』も主題歌は歌えるので、毎回見ていたのだろう。
地球側の設定がリセットされるのに、ウルトラマンたちは共通であることを、僕より下の世代はどう受け止め、どう解釈していたのだろう。あまり深く考えずに、今度はタロウだ、ZATだと楽しんでいたのだろうか。案外とそんなものなのかもしれない。
『ウルトラマンタロウ』第一回の視聴率は二一・七パーセントだった。前作『ウルトラマンA』が低調だったので、それを引き継いでしまい、最終回も一八・〇パーセント、平均で一七・〇パーセントに終わった。
それでも視聴率は一五パーセント以上だったのでシリーズは続き、一九七四年四月からは『ウルトラマンレオ』が始まった。『帰ってきたウルトラマン』から数えれば四作目だ。
第一回は、太平洋上の島でウルトラセブンがマグマ星人が操る双子の怪獣レッドギラスとブラックギラスと戦っているシーンで始まる。いつの間にかウルトラセブンは地球に戻っていたのだ。しかし二頭は強敵で、なかなか倒せない。そこに別のヒーローが登場してセブンを助ける。それがウルトラマンレオだった。
怪獣との戦闘の後、セブンはモロボシ・ダンになっている。しかし、制服はウルトラ警備隊のものではなく、宇宙パトロール隊MAC(Monster Attacking Crew)のものだ。ダンはその隊長という設定だった。
見ていて、ウルトラセブンがモロボシ・ダンという設定であるなら、ウルトラ警備隊を出すべきではないのか、アンヌ隊員はどうなったんだと思ったものだ。そう思った人は多かったらしく、要望に応えてなのか、第二九話には『ウルトラセブン』でアンヌを演じたひし美ゆり子がゲスト出演した。ひし美演じる女性はダンと会い、「アンヌなのか」と問われるのだが、「違う」と言う。はたしてアンヌなのかどうかは、明確には示されなかった。
レオは他のウルトラ兄弟とは異なり、獅子座のL77星から来たという設定になっている。だからウルトラマンともウルトラセブンとも似ていない。
一年間続いたが、製作費削減のため、第四〇回でMACは全滅してしまい、モロボシ・ダン以下のメンバーは出なくなった。
視聴率は第一回が一七・六パーセントで、これが最高だった。夏休みになる頃には一〇パーセントを割ってしまい、最終回は八・三パーセント。平均がかろうじて一〇・三パーセントで、当然、シリーズ継続は無理で、『帰ってきたウルトラマン』に始まった第二期ウルトラ・シリーズは一九七五年三月に、『レオ』で終わった。
この後、金曜七時はアニメ『勇者ライディーン』が始まるが、七五年四月にネットの系列の変更があり、東京ではTBSの後番組としては『ちびっこアベック歌合戦』が始まり、『勇者ライディーン』は東京ではNETが放映した。
●不滅の円谷英二神話
『ウルトラマンレオ』が放映された一九七四年四月から七五年三月は、僕にとって中学二年にあたり、見ない回も多かったのか、あるいは見ていたけど熱心でなかったので忘れているのか、『レオ』については、ほとんど記憶にない。主題歌も歌えないし、聞いてもすぐには分からないだろう。
教室でも、再放送されていた『ウルトラセブン』のほうが話題になっていたように記憶している。
生意気な中学生には、最初の『ウルトラQ』『ウルトラマン』『ウルトラセブン』のほうに人気があったのだ。中学生にして「昔はよかった」「近頃のウルトラマンはつまらない」と嘆く年頃になっていた。
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